《新古今和歌集・巻第十・羈旅歌》

 

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題知らず

菅原輔昭(すがはらのすけあき)

まだ知らぬ故郷人(ふるさとびと)は今日までに来(こ)んと頼めしわれを待つらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

菅原輔昭

帰れないでいることをまだ知らない故郷の人は、

今日までに帰ってこようと約束した私を、

待っていることであろう。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;題はつけないでおきます。

 

作者;菅原輔昭

 

 

故郷の人は

(私が帰らない、または、帰れないことを)

まだ知らないのだ。

 

「今日までに戻ってくる」

 

…そんなふうに

期待させた私のことを

信じて

待っているのだろう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

この歌のように

ボヤッとした訳しか出ない場合、

何か背後に事情があるはず…。

 

そう思って調べましたが

作者の背景が分かる資料が見つけられず、

なぜ、「まだ故郷に帰れない」と言っているのか

不明です。

 

菅原輔昭(すけあき・すけあきら):生没年不詳。

父は、菅原文時(=菅原道真の孫)。

975年「一条大納言為光歌合」、

977年「三条左大臣頼忠前栽歌合」に参加。

982年出家。

中古三十六歌仙。

 

まだ:まだ。いまだ。

 

しる:愚かになる。ぼける。ぼんやりとなる。物好きである。いたずら好きである。

しる:理解する。わきまえる。経験する。体験する。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。

しる:統治する。治める。領有する。

 

ふるさと:古都。旧跡。生まれ故郷。古くからの馴染みの土地。もとの住居。自宅。住み慣れた所。

ふる:古くなる。年をとり老いる。昔馴染みである。

ふる:降る。涙が流れ落ちる。

ふる:さわる。触れる。男女が慣れ親しむ。関係する。少し食べる。

ふる:震動する。

ふる:振り動かす。顔を背ける。相手にしない。

ふる:経る。

 

ふるさとびと:ふるさとの人。昔馴染みの人。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

けふ:今日。

げふ:仕事。職業。

 

まで:〜まで。〜ほど。

まで:詣で。参上する。伺う。参詣する。

まて:待て。

 

く:来る。

 

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

たのめ:頼りに思わせること。あてにさせること。期待させること。

たのむ:手ですくって飲む。

たのむ:期待する。あてにする。主人として仕える。身を託す。信頼する。

 

われ:わたくし。自分自身。おまえ。

 

わる:砕ける。裂ける。割れる。分かれる。別々になる。心が乱れる。思い乱れる。秘密がばれる。露見する。押し分けて前に進む。打ち破る。

 

まつ:松。永久不変。待つ。

 

まつる:差し上げる。たてまつる。召し上がる。お〜申し上げる。

 

らむ:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。