《新古今和歌集・巻第十・羈旅歌》

 

906

題知らず

紀貫之

白雲(しらくも)のたなびきわたるあしひきの山の掛橋(かけはし)今日(けふ)や越えなん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

紀貫之

白雲がずっとたなびいている山の掛橋を、

今日は越えることであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;大姉となった(亡くなった)人に捧げる歌

 

作者;紀貫之

 

 

亡くなったあの方は

今頃は

天国への架け橋を

越えて行(逝)かれたことでしょう。

 

私の行く先には

白い雲が

まるで火葬の煙のように

たなびいて

一面に広がっています。

 

足元が悪く、

越えるには不都合な山なのですが

 

私も

今日は、

谷にかけられた橋を

越えて

 

そして、

 

死の悲しみも

乗り越えて

いきましょう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

紀貫之:866または872年?〜945年5月18日(享年74または80)。

醍醐天皇、朱雀天皇に仕えた。

905年4月、『古今和歌集』を撰上。

907年9月、宇多天皇の大井川行幸にて歌や序を供奉。

930年1月〜935年2月、土佐守。

930年1月、醍醐天皇の勅令により『新撰和歌集』を編纂。

 

 

しらくも:白雲

しらく:白くなる。興ざめがする。気分がそがれる。しらける。具合が悪くなる。きまりが悪くなる。気まずくなる。打ち明ける。明白にする。

しらぐ:たたく。むちうつ。

しらぐ:精米する。仕上げる。よりよくする。

くも:空の雲。雲のように見えるもの。心が晴れないことや心の憂い。うっとおしいこと。火葬の煙。死ぬことのたとえ。

 

たなびく:霞などが横に長く引く。たなびかせる。長く連なる。引き連れる。

 

わたる:越えていく。過ぎる。通る。行く。過ごす。またがる。広く通じる。いらっしゃる。長い間ずっと〜し続ける。一面に〜する。ずっと〜する。

 

あしひきの:山

 

あし:足。脚。歩くこと。雨足。船の速度。

あし:植物の葦。

あし:悪い。不適当だ。不都合だ。具合が悪い。見苦しい。みっともない。卑しい。貧しい。悪い。不快だ。すぐれない。荒々しい。激しい。下手だ。劣っている。

 

ひき:引くこと。率いること。導き。引き立て。手助け。助け。つて。

ひく:退く。退却する。

ひく:引っ張る。引き抜く。取り去る。取り外す。引いて張り巡らす。弓を引く。引きずる。導く。心を惹きつける。誘う。引用する。線を書く。地ならしをする。贈り物として与える。入浴する。つまびく。

 

やま:山岳。比叡山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたりあおぎみたりするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。

 

かけはし:はしご。川や谷などにかけ渡した橋。仮にかけた橋。けわしい崖などに、板をかけ渡して作った道。

 

かく:このように。こう。こんなに。

かく:馬に乗って走る。

かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。

かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。

かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。

かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。

かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。

 

はし:きざはし。はしご。位階。

はし:ふち。へり。はじめ。おこり。発端。縁側。一部分。中途半端。

はし:くちばし

はし:橋。渡り廊下。

はし:かわいい。いとおしい。懐かしい。

 

けふ:今日。

げふ:仕事。職業。

 

こゆ:肉付きがよくなる。太る。

こゆ:山や谷を越える。年や月が変わる。上回る。まさる。追い越す。

 

こゑ:声。鳴き声。音。音楽。

 

なむ:南無。仏を信じ、それに帰依すること。

なむ:一列に連なる。並ぶ。

なむ:いまごろは〜だろう。〜ているだろう。

む:無。

む:〜う。〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

下句、『貫之集』には、

「山のたな橋われもふみ見む」。

 

『古今六帖』・家集の別本には、

「山のたな橋われも渡らむ」。