《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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陸奥国(みちのくに)へまかりける人に餞(はなむけ)し侍りけるに

西行法師

君いなば月待つとてもながめやらん東(あづま)の方(かた)の夕暮(ゆふぐれ)の空

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

陸奥国へ下った人に餞別をしました時に

西行法師

君が下っていかれたなら、

出る月を待つにつけても、

しみじみと眺めましょう。

東国の方角の夕暮の空を。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;陸奥国(東北地方)へ旅立った人に

餞別をしました時の歌。

 

作者;西行法師

 

 

陸奥国へ向かって

あなたが立ち去ってしまったら

 

東の方角(陸奥国のある方向)から

月が出るのを待つふりをして

 

あなたのいらっしゃる東の方向を

ぼんやりと眺めやり

涙を流すことでしょう。

 

夕暮れ時、

東の空を眺めると

 

涙で目の前が暗くなり、

心が乱れ惑います。

 

虚しく

心細い気持ちになる

夕暮の空ですよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

西行法師:1118年〜1190年2月16日(享年73)。

1140年:出家して西行法師と号する。

1149年:高野山に入る。

 

きみ:香りと味。風味。味わい。趣。気持ち。気分。

きみ:君主。天子。天皇。主人。主君。(貴人に対して)お方。遊女。あなた。

 

いぬ:どこかへ行ってしまう。立ち去る。いなくなる。去る。時が過ぎ去る。時が移る。経過する。世を去る。死ぬ。亡くなる。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

まつ:松。永久不変。待つ。

 

ながめやる:物思いにふけりながら見るともなく目をやる。遠くをぼんやりと眺める。

 

ながむ:もの思いにふける。ぼんやりと見やる。遠方を見渡す。遠くを見る。

ながむ:口ずさむ。詩歌をつくる。

ながめ:長雨。

 

やる:破る。こわす。

やる:行かせる。遠方へ送る。届ける。払い除ける。慰める。

 

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

あづま:東国。京都から鎌倉、または鎌倉幕府をさして言う語。

 

かた:方向。方角。場所。部屋。方面。方法。手段。片方。組。ころ。時分。お方。

かた:絵。模様。形跡。痕跡。占いの結果。しきたり。形式。

かた:肩。鳥の翼の付け根部分。

かた:干潟。入り江。

かたし:壊れにくい。固い。厳しい。強い。

かたし:難しい。容易ではない。めったにない。まれである。

 

ゆふ:夕方。

ゆふ:結ぶ。しばる。ゆわえる。髪を結ぶ。髪を整える。組み立てる。

 

くる:目の前が暗くなる。目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れ惑う。理性がなくなる。

くる:日が暮れる。年や季節が終わる。

くる:与える。やる。くれる。

くる:たぐる。順に送る。順にめくる。

くれ:来れ。

 

そら:空。天空。天候。方向。場所。気持ち。心境。心細く不安な気持ち。あたりの雰囲気。たたずまい。

 

そらに:うつろな気持ちだ。うわのそらだ。気もそぞろだ。落ち着かない。根拠がない。よりどころがない。いいかげんだ。はかない。むなしい。かいがない。暗記して。何も見ないで。足元がおぼつかない。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

山家集