《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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守覚法親王、五十首歌よませ侍りける時

藤原隆信朝臣

たれとしも知らぬ別れの悲しきは松浦(まつら)の沖(おき)を出(い)づる舟人(ふなびと)

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

守覚法親王が五十首の歌を詠ませました時

藤原隆信朝臣

去っていく人が

誰とも分からぬ別れで悲しいのは、

松浦の沖を出る舟に乗っている人との

別れであるよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1198年に開催された「御室五十首」で

守覚法親王が詠ませなさいました歌。

題は、「眺望」。

 

作者;藤原隆信

 

 

松浦(佐賀県松浦半島)の沖から旅立つ舟人を

眺望するとき

 

必ずしも、

誰が舟に乗っているのか

わかるわけではありません。

 

そんなふうに、

 

必ずしも誰が旅立ったのかが

分からない時でも

 

離別の悲しみは

 

切なく、

残念で、

涙がしたたり落ちるものですね。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原隆信:1142年〜1205年2月27日(享年64)。

二条天皇、六条天皇、高倉天皇、

安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。

父は、藤原為経。

母は、美福門院加賀。

母の再婚相手である藤原俊成に育てられた。

若い頃、歌人として名をあげる。

 

守覚法親王:1150年3月4日〜1202年8月26日(享年53)。

父は後白河天皇。母は、藤原成子。

式子内親王は、同母姉。

1202年、仁和寺喜多院で死去。

 

たれ:誰。どの人。

 

たる:垂れ下がる。ぶら下がる。したたる。したたらす。神仏が恩恵を現し示す。

たる:十分である。相応する。価値がある。値する。満足する。

 

とし:一年。歳月。多年。年齢。季節。時候。穀物。稲。

とし:するどい。鋭利だ。

とし:すばしこい。俊敏だ。感覚がするどい。鋭敏だ。

とし:速い。激しい。時期や時間が早い。

 

しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。

しも:霜。白髪のたとえ。

しも:〜なさる。

しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。

しも:死も。

 

しる:愚かになる。ぼける。ぼんやりとなる。物好きである。いたずら好きである。

しる:理解する。わきまえる。経験する。体験する。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。

しる:統治する。治める。領有する。

 

わかれ:別離。死別。

 

かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。

 

まつら:佐賀県松浦半島。唐土(中国)への舟出の基地であった。

 

まつ:松。永久不変。待つ。

 

まつる:差し上げる。たてまつる。召し上がる。お〜申し上げる。

 

つらし:薄情だ。冷淡だ。思いやりがない。耐えがたい。つらい。

つら:連なること。ひとつながりもの。列。同列にあるもの。同類。仲間。

つら:顔。ほお。物の表面。おもて。そば。わき。かたわら。ほとり。

 

おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。

おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。

 

おき:沖。心の奥底で。

おき:赤くおこった炭火。薪などが燃え終わり、炭火のようになったもの。

 

いつ:凍りつく。いてつく。

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。〜始める。

いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。

 

ふ;通って行く

ね;泣き声

ふね:舟。水槽。かいばおけ。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

1198年開催の御室五十首

 

『隆信集』には、題「眺望」。第三句「悲しさは」。