《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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みこの宮(みや)と申しける時、

太宰大弐実政(だざいのだいにさねまさ)、

学士(がくし)にて侍りける、

甲斐守(かひのかみ)にて下り侍りけるに、

餞(はなむけ)賜はすとて

後三条院御歌

思い出(い)でばおなじ空とは月を見よほどは雲居(くもゐ)にめぐり逢ふまで

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

東宮と申していた時、

太宰大弐実政が東宮学士として仕えていたが、

甲斐守となって下りました折に、

餞別をくださるというので。

後三条院御歌

わたしを思い出したならば、

わたしの眺めている空と同じ空のものと思って、

月を見なさいよ。

距離は遠く隔っても、また、

この宮中でめぐり逢うまでは。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;私が後冷泉天皇の皇太弟であった時、

太宰府の次官・藤原実政(さねまさ)が

当時、私の学士として勤めていたのだが、

(1064年に)甲斐守として赴任することになり、

餞別を贈ることになった。

そこで、詠んだ歌。

 

作者;後三条天皇

 

 

宮中で

共に過ごしたことを

懐かしく思い出すことがあれば

 

皇居のある京都と

あなたが赴任する甲斐(山梨県)は

同じ空だと思って

月を見上げてください。

 

虚しく、落ち着かない気持ちも

また、

あなたと同じです。

 

しばらくの間は

距離が離れてしまうけれど、

 

また、

皇居で再び逢う日がやってくるだろう。

 

だから

その日が来るまで

待っていましょう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

後三条天皇:1034年7月18日〜1073年5月7日(享年40)。

在位:1068年4月19日〜1072年12月8日。

後朱雀天皇の第二皇子。

母は、禎子内親王(陽明門院)(後朱雀天皇の皇后)。

後冷泉天皇の異母弟。

宇多天皇以来170年ぶりの藤原氏を外戚としない天皇。

1045年1月16日、12歳で後冷泉天皇の皇太弟。

 

藤原実政(さねまさ):1019年〜1093年2月18日(享年75)。

後朱雀天皇、後冷泉天皇、後三条天皇、

白河天皇、堀河天皇に仕えた。

1050年、東宮(後の後三条天皇)の学士。

1064年〜甲斐守。

1084年〜太宰大弐。

1088年11月、伊豆国へ配流。

 

おもひいづ:思い出す。思い起こす。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。

 

おなじ:同じだ。等しい。同一である。

 

そら:空。天空。天候。方向。場所。気持ち。心境。心細く不安な気持ち。あたりの雰囲気。たたずまい。

 

そらに:うつろな気持ちだ。うわのそらだ。気もそぞろだ。落ち着かない。根拠がない。よりどころがない。いいかげんだ。はかない。むなしい。かいがない。暗記して。何も見ないで。足元がおぼつかない。

 

とは:永遠。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

ほど:とき。間。ころ。時分。しばらくのあいだ。期間。年月。月日。距離。長さ。広さ。大きさ。高さ。あたり。付近。身分。間柄。年齢。程度。ようす。ありさま。〜くらい。

 

くもゐ:空。雲。遥か遠方。空の彼方。宮中。皇居。天皇。

 

めぐりあふ:めぐりめぐって出会う。再び出会う。

 

めくる:悲しみや驚きでめまいがする。目がくらむ。物事の道理や善悪が分からなくなる。目がくらむ。

めぐる:円を描くように回転する。周囲をまわる。周囲を取り囲む。順繰りにまわり歩く。巡回する。歩き回る。行ってもとへ戻る。帰る。生まれ変わり死に変わりする。転生する。輪廻する。世の中にまじる。生き続ける。生きながらえる。時が経過する。うつりゆく。

 

あふ:耐える。持ち堪える。差し支えない。大目に見る。完全に〜しとげる。終わりまで〜しおおせる。どうしても〜することができない。

あふ:出会う。対面する。来合わせる。うまく出くわす。あたる。適合する。男女が関係を結ぶ。ちぎる。結婚する。相手になる。立ち向かう。対抗して争う。

あふ:ひとつになる。一緒になる。一致する。調和する。釣り合う。似合う。一緒に〜する。互いに〜しあう。

あぶ:(水、湯、光などを)浴びる。

 

まで:〜まで。〜ほど。

まで:詣で。参上する。伺う。参詣する。

まて:待て。