《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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実方(さねかた)朝臣の陸奥国(みちのくに)へ下り侍りけるに、

餞(はなむけ)すとてよみ侍りける

中納言隆家

別路(わかれぢ)はいつも嘆きの絶えせぬにいとど悲しき秋の夕暮(ゆふぐれ)

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

実方朝臣が陸奥国へ下りました時に、

餞別をするというので、詠みました歌

中納言隆家

別れ道はいつも嘆きが絶えないものですのに、

いよいよ悲しい、

秋の夕暮れであることです。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;藤原実方が陸奥国(東北地方)へ

左遷されることとなりました。

その餞別をするというので歌を詠みました。

 

作者;藤原隆家

 

 

人と離別する時は

いつも心が凍りつくようです。

 

悲しみ嘆く気持ちが

途絶えることがありません。

 

ただでさえ、

お別れするのは悲しいのに

 

秋の夕暮は

さらに

切なく、つらく、心が寒く感じます。

 

あなたが居た場所に空きができ

(=あなたが居なくなって)

心が乱れ惑い、

涙で目が見えなくなる

秋の夕暮れ時ですよ。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原隆家:979年〜1044年1月1日(享年66)。

一条天皇、三条天皇、後一条天皇、後朱雀天皇に仕えた。

1014年11月、太宰権帥。

1019年、帰京。

父は、藤原道隆(藤原道長の兄)。

1012年末頃より外傷を原因とした眼病にかかる。

太宰府に名医がいるとのことから太宰権帥への任官をのぞむ。

この任官は、道長に強く妨害されるが、

同じ眼病に悩む三条天皇の同情は深く、

1014年11月になって大宰権帥に任ぜられた。

大宰府では善政を施した。

 

藤原実方:?〜998年12月13日。

(40歳前後で亡くなったと思われる)

中古三十六歌仙。

花山天皇、一条天皇に仕えた。

995年正月、突然、陸奥国に左遷される。

左遷の理由は、一条天皇の面前で

藤原行成と和歌について口論となり、

実方が行成の冠を奪って投げ捨てたことで

天皇の怒りを買ったため、天皇から「歌枕を見てまいれ」と

左遷を命じられた。

…との逸話が残っているが、これが事実かどうかは不明。

998年12月、陸奥国で実方が馬に乗り、

笠島道祖神の前を通った時、乗っていた馬が突然倒れ、

下敷きになって没した。

現在の宮城県名取市に墓がある。

 

わかれぢ:人と別れていく道。死に別れていく道。離別。死別。

 

わかる:別々になる。分離する。離別する。死別する。

 

いつ:凍りつく。いてつく。

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。〜始める。

いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。

 

なげく:長い息をする。ため息をつく。悲しむ。悲しんで泣く。嘆願する。愁訴する。こいねがう。

 

たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。

 

いとど:いよいよ。いっそう。ますます。そのうえさらに。ただでさえ〜なのにさらに。

 

かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

ゆふ:日暮れどき

ゆふ:縛る。ゆわえる。髪を結ぶ。組み立てる。

くる:目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れまどう。理性がなくなる。

くる:日が暮れる。終わる。過ぎる。

くる:与える。やる。くれる。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

実方集