《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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修行(すぎやう)に出(い)で立つとて、

人のもとに遣はしける

道命(だうみやう)法師

別路(わかれぢ)はこれや限りの旅ならんさらにいくべき心地こそせね

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

仏道の修行に旅立つというので、

人のもとに贈った歌

道命法師

お別れ申して旅路に立ちますことは、

今度が最後となる旅でしょうか。

このうえ長く生きられそうな気持ちがしませんので、

いっこうに立って行けそうな気持ちにもならないことです。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;仏道の修行に出るために旅立つので、

ある人の元に、歌を詠み贈りました。

 

作者;道命法師

 

 

(修行の旅に出るのに)

別れていくのは

 

今、この時で

最後の機会になるだろう。

 

また

新たな旅に出ることができるほど

 

生きながらえる気が

しないので。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

道命法師:974年〜1020年7月4日(享年47)。

父は、藤原道綱。

母は、源近広の娘。

阿闍梨、天王寺別当。

中古三十六歌仙のひとり。

若くして出家し、天台座主、良源の弟子となった。

1016年天王寺別当。

花山天皇と親しかった。

和泉式部とも親しかった。

 

わかれぢ:人と別れていく道。死に別れていく道。離別。死別。

 

わかる:別々になる。分離する。離別する。死別する。

 

これ:これ。ここ。こちら。いま。この時。この場合。自分。あなた。おまえ。このひと。まさに。たしかに。もし。おい。

 

こる:より集まる。固まる。凍る。一心に思い込む。熱中する。じっと考える。

こる:失敗を後悔して二度とするまいと思う。こりる。

こる:木を切る。伐採する。

 

かぎり:限度。限界。極限。最大限。最高潮。期間。うち。範囲内。最期のとき。命の果て。臨終。葬送。全て。あるだけ全部。機会。時期。折。規則。決まり。おきて。〜だけ。〜ばかり。

 

たび:旅。

だび:荼毘。

 

なる:生まれ出る。生じる。実ができる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。達する。おいでになる。おなりになる。おでましになる。

なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。

なる:生計をたてる。営む。

なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。打ち解ける。なじむ。

 

む:無。

む:〜う。〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

さらに:改めて。あらたに。もう一度。重ねて。そのうえ。ますます。いっそう。

 

ゆく:赴く。出かける。その場所を離れる。立ち去る。通り過ぎる。通過する。雲や水が流れる。流れ去る。年月が過ぎる。経過する。死ぬ。亡くなる。逝去する。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

いく:どれほど。どれくらい。

いく:生命が永久で生き生きとしているとして褒め称える語。

いく:生きる。生存する。生き長らえる。助かる。花などをいける。

いく:行く。赴く。立ち去る。通り過ぎる。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。

 

ここち:気分。気持ち。心持ち。考え。思慮。心構え。心。ようす。感じ。気分が悪いこと。病気。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

道命法師集