《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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亭子院(ていじのゐん)、

宮滝(みやたき)御覧(ごらん)じにおはしける

御供(おほんとも)に、素性法師、

召(め)し具(ぐ)せられて、参れりけるを、

住吉(すみよし)の郡(こほり)にていとま賜はせて、

大和(やまと)に遣はしけるに、よみ侍りける

一条右大臣

神無月(かみなづき)まれの御幸(みゆき)に誘(さそ)はれて今日別れなばいつか逢(あ)ひ見ん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

亭子院が宮滝をご覧になりにいらっしゃったお供に、

素性法師が、召しつれられて、参っていたが、

住吉の郡で暇をくださって、大和に行かせなさった時に、

詠みました歌

一条右大臣

神無月のまれの御幸に誘われ申して、

ここまでいっしょに来たのですが、

今日お別れしてしまったならば、

また、いつお目にかかれることでしょうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;亭子院(宇多上皇)が、吉野川の景勝の地で

離宮があった宮滝にいらっしゃるお供に

素性法師を召され、共に参りました。

(天皇は素性法師に)

住吉にて休暇をお与えになり、

(素性法師の住んでいた寺があった)大和に

行かせなさいました。

その時に詠みました歌。

 

作者;藤原恒佐(つねすけ)

 

 

神も天皇もいない神無月です。

 

「かみなづき」とは、

「天皇に寄り添ってお世話申し上げる十月」

という言霊になりますね。

 

私と素性法師は

めったにないことに

天皇の御幸に誘われて、

同行させていただきました。

 

今日、素性法師とお別れしたら

いつまたお逢いできるでしょうか。

 

(また、お逢いしたいですね。)

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

一条右大臣:藤原恒佐(つねすけ):879年〜938年5月5日(享年60)。

醍醐天皇、朱雀天皇に仕えた。

 

亭子院:宇多上皇:宇多天皇:

867年5月5日〜931年7月19日(享年65)。

在位:887年8月26日〜897年7月3日。

899年10月24日:出家。仁和寺に入り、法皇となった。

 

素性法師:?〜910年?

桓武天皇のひ孫。

父は、遍昭。

三十六歌仙のひとり。

仁明天皇の皇子(常康親王)が出家し、雲林院を御所とした時、

遍昭・素性親子は出入りを許可されていた。

常康親王亡きあとは、遍昭が雲林院の管理を任された。

遍昭が亡くなったあと、素性法師が雲林院に住んだ。

雲林院は、和歌・漢詩の会の催しの場であった。

素性法師は、

宇多天皇の歌合にしばしば招かれている。

 

宮滝:奈良県吉野郡吉野町。吉野川の景勝の地。古く離宮があった。

 

住吉の郡:摂津国。大阪市住吉区あたり。

 

大和:大和国山辺郡の石上の布留に素性法師の住んでいた寺、

良因院があった。

 

いと:とても。本当に。

いとま:ひま。余裕。ゆとり。休み。休暇。喪に服すこと。忌引き。辞職。辞任。離別。死別。離縁。離婚。隙間。

 

かみ:高いところ。上の方。川上。高位の人。天皇。年上。上席。冒頭。以前。昔。前半。

 

かみ:髪の毛。

 

かみ:高いところ。上の方。上流。川上。高位の人。天皇。年上。上座。冒頭。以前。昔。上旬。京都。

 

かみ:神。雷。人間の力を超えたもの。恐ろしいもの。人格化された存在。神社に祀られたもの。祭神。天皇。

 

みな:全部。みんな。すっかり。ことごとく。

 

みなす:見なす。見届ける。世話をする。育て上げる。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

神無月:十月。神または天皇がいなくなった月。

 

き:樹木。

き:大気。気配。気持ち。気分。元気。気力。

き:忌中。命日。

 

まれ:ごく少ないさま。めったにない。

まれ:〜であっても。〜でも。

 

みゆき:天皇や皇太子がお出かけになること。天皇のおでまし。深く降り積もった雪。雪の美称。

み:身。見。美。身分。命。海。

ゆき:雪。行く。逝く。涙。

 

さそふ:連れて行く。連れ去る。促す。勧誘する。そそのかす。

 

けふ:今日。

げふ:仕事。職業。

 

わく:区別する。判断する。別々にする。区切る。分配する。押し分けて進む。

 

わかる:別々になる。分離する。離別する。死別する。

 

いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。

いつ:凍りつく。こおる。いてつく。氷がはる。

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。

いつか:いつ〜か。いつになったら〜か。早く〜したい。(反語)いったいいつ〜か(いや〜ない)。いつの間に〜か。いつかそのうちに。

いつかは:いつになったら〜か。(反語)いつ〜か(いや〜ない)。

いつか:5日。

 

あひみる:顔を合わせる。対面する。男女が愛情を交わす。契りを結ぶ。

あひー:一緒に。互いに。

あひ:あいだ。間隔。隙間。人との間柄。仲。

 

あふ:耐える。持ち堪える。差し支えない。大目に見る。完全に〜しとげる。終わりまで〜しおおせる。どうしても〜することができない。

あふ:出会う。対面する。来合わせる。うまく出くわす。あたる。適合する。男女が関係を結ぶ。ちぎる。結婚する。相手になる。立ち向かう。対抗して争う。

あふ:ひとつになる。一緒になる。一致する。調和する。釣り合う。似合う。一緒に〜する。互いに〜しあう。

あぶ:(水、湯、光などを)浴びる。

 

みる:目に留める。目にする。見て判断する。会う。対面する。経験する。ことにあう。試みる。世話をする。面倒をみる。

 

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。