《新古今和歌集・巻第九・離別歌》

 

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陸奥国(みちのくに)の介(すけ)にてまかりける時、

範永(のりなが)朝臣のもとに遣はしける

高階経重(たかしなのつねしげ)朝臣

ゆく末(すゑ)にあぶくま川(がは)のなかりせばいかにかせまし今日(けふ)の別れを

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

陸奥介で下った時、範永朝臣のもとに贈った歌

高階経重朝臣

下ってゆく旅路の末に、

将来また逢うことを期待させる「逢ふ」という名の

「あぶくま川」がなかったとしたら、

どうしましょう。

今日のこの悲しい別れを。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;陸奥介(地方官の次官)として赴任したとき、

藤原範永に贈った歌

 

作者;高階経重

 

 

(私は、

陸奥国(東北地方)に

赴任することになりました。)

 

もし、

これから赴任する先に

「阿武隈川」がなかったならば

 

今日の別れを

どんなにか悲しく感じたことだろう。

 

なぜなら、

 

「阿武隈川(あぶくまがは)」

という言霊には、

 

「奥まったへんぴな片田舎に赴任する人の

心中や事情を思いやり、涙を流す」

 

という意味があります。

 

また、

 

「お逢いして

食事をしたり、お茶をしたりして

お互いにやりとりする」

 

という意味があります。

 

(ので、

また、いつの日か、

あなたにお逢いしたいと思います。)

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

高階経重:生没年不詳。

後冷泉天皇に仕えた。

1062年春、源頼義の後任で陸奥守。

しかし、着任後、郡司・人民は経重に従わず、

何のなすすべもなく帰洛した。

朝廷内は混乱し、後任候補の辞退もあって、

再び頼義が陸奥守に任ぜられた。

 

藤原範永:993年頃〜没年不詳。

1270年頃出家。

後一条天皇、後朱雀天皇、後冷泉天皇、後朱雀天皇に仕えた。

和歌六人党。

 

いく:どれほど。どれくらい。

いく:生命が永久で生き生きとしているとして褒め称える語。

いく:生きる。生存する。生き長らえる。助かる。花などをいける。

いく:行く。赴く。立ち去る。通り過ぎる。

 

ゆくすゑ:進んでいく先、方向。これから先。将来。前途。余命。

 

ゆく:赴く。出かける。その場所を離れる。立ち去る。通り過ぎる。通過する。雲や水が流れる。流れ去る。年月が過ぎる。経過する。死ぬ。亡くなる。逝去する。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

すゑ:末端。端。枝先。こずえ。道の終わり。山の奥。野の果て。将来。未来。子孫。跡継ぎ。晩年。盛りを過ぎた時期。衰退期。終わりごろ。末期。結果。挙句。結末。末席。下座。下位。

 

あぶくまがは:福島県南部に源を発し、北流して宮城県南部で太平洋に注ぐ阿武隈川。またその流域一帯。

 

あふぐ:上方に顔を向ける。見上げる。敬う。尊敬する。あがめる。求める。請う。

 

あふ:耐える。持ち堪える。差し支えない。大目に見る。完全に〜しとげる。終わりまで〜しおおせる。どうしても〜することができない。

あふ:出会う。対面する。来合わせる。うまく出くわす。あたる。適合する。男女が関係を結ぶ。ちぎる。結婚する。相手になる。立ち向かう。対抗して争う。

あふ:ひとつになる。一緒になる。一致する。調和する。釣り合う。似合う。一緒に〜する。互いに〜しあう。

あふ:食事を出してもてなす。接待する。

あぶ:(水、湯、光などを)浴びる。

 

ふく:風がおこる。風が吹く。息を口から噴き出す。

ふく:時がたつ。季節が深まる。夜がふける。年をとる。老ける。

ふく:屋根を覆う。草木を軒先にさして飾る。

ぶく:喪服。喪中。

ぶく:供物。

 

くま:川や道などの曲がり角。奥まった所。人目につきにくい所。へんぴな所。片田舎。心のうちに隠していること。隠しだて。秘密。光の当たらない所。かげ。曇り。暗がり。月にかかる雲の部分。歌舞伎の隈取り。

 

くむ:相手に組み付く。組み討ちする。取っ組みあう。糸などの細長いものをからみ合わせる。織る。編む。組み合わせて作る。構築する。

くむ:水などを器にすくいとる。酒や茶を器につぐ。人の心の中や事情を推し量る。思いやる。汲み取る。

 

ま:目。隙間。暇。部屋。

 

かは:川。川のように大量の涙。

かはす:互いに交える。交差させる。互いにやりとりする。通わせる。変える。移す。

 

かはる:異なる。変わる。月や年が改まる。普通と違う。異なっている。他と交代する。

 

なき:亡き。泣き。鳴き。無き。

 

いかに:どのように。どう。なぜ。なんとまあ。どんなにか。どんなに〜でも。もしもし。なんと。

 

ませば-まし:(反実仮想)もし〜としたら、〜だろうに。もし〜ならば、〜だろうに。

 

けふ:今日。

げふ:仕事。職業。

 

わく:区別する。判断する。別々にする。区切る。分配する。押し分けて進む。

 

わかる:別々になる。分離する。離別する。死別する。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

範永朝臣集

続詞花集