《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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思ひにて人の家に宿(やど)れりけるを、

その家に忘草(わすれぐさ)の多く侍りければ、

あるじに遣はしける

中納言兼輔(かねすけ)

なき人をしのびかねては忘草(わすれぐさ)多かる宿(やど)に宿りをぞする

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

喪中で人の家に宿っていましたが、

その家に忘れ草がたくさんありましたので、

主人に詠み贈りました歌

中納言兼輔

亡き人を思い慕う心に耐えがたくなっては、

忘れ草のたくさんある家に、

宿泊することです。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;喪中だったので、

ある人の家に泊まっていたところ、

その家に、憂いを忘れさせるという忘れ草が

たくさん植えられていたので

その家の主人に歌を詠んで贈りました。

 

作者;藤原兼輔

 

 

亡くなった人を思い慕う気持ちを

こらえることができないで

 

憂いを忘れさせてくれるという

忘れ草がたくさん植えられている宿に

宿泊をしました。

 

(ご主人も

忘れ草をたくさん植えなければならないほど

亡くなった人を恋い慕っておられたのですね。

私もあなたも

たくさんの悲しみを抱えているので

多くの忘れ草が必要ですね。)

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

中納言兼輔:藤原兼輔:877年〜933年2月18日(享年57)。

930年〜中納言。

醍醐天皇、朱雀天皇に仕えた。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。

 

にて:(時間・場所)〜で。〜において。(手段・方法)〜で。〜によって。(原因・理由)〜で。〜ので。〜により。(資格・役割)〜で。〜として。(状況・事情)〜で。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

いへ:住宅。家族。妻。血筋。家系。名門。俗世。

 

やど:家の戸。家。自宅。庭先。泊まるところ。主人。

やどる:宿泊する。すむ。仮のすみかとする。とどまる。映る。寄生する。

やどり:旅先などで泊まること。泊まる宿。住まい。すみか。仮の住居。

 

わすれぐさ:萱草(かんぞう)古い言い方。うれいを忘れさせる草といわれ、恋の苦しみを忘れるために下着の紐につけたり、垣根に植えたりした。

 

わす:いらっしゃる。おいでになる。

わする:意識的に忘れる。自然に忘れる。

 

くさ:草。原因。たね。種類。

くさし:くさい。あやしい。胡散臭い。~に似た様子だ。~らしい。

 

なき:泣き。亡き。鳴き。無き。

 

しのぶ:人目につかないようにする。隠す。秘密にする。感情を抑えてたえる。気持ちをこらえる。我慢する。

しのぶ:思い慕う。恋い慕う。懐かしく思う。美しさや素晴らしさをほめたたえる。賛美する。

しのぶ;恋心の乱れ。

 

死+のぶる

のぶ:長くなる。伸びる。広がる。期日が伸びる。延期になる。逃げ延びる。気持ちがのびのびする。ゆったりする。

 

おほし:大きい。立派だ。偉大だ。多くある。

おほ:大きい。広い。量が多い。程度が甚だしい。尊敬、賞賛の意味。

おほ:ふつうだ。平凡だ。ぼんやりしている。はっきりしない。いいかげんだ。

 

かる:枯れる。干からびる。干上がる。涸れる。

かる:離れる。遠ざかる。間をあける。隔たる。足が遠くなる。疎遠になる。よそよそしくなる。

かる:草などを切り取る。

かる:借りる。

かる:追い払う。追い立てる。馬などを走らせる。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

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