《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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更衣(かうい)の服(ぶく)にて参れりけるを見給ひて

延喜御歌(えんぎのおほんうた)

年経(ふ)ればかくもありけり墨染(すみぞめ)のこは思ふてふそれかあらぬか

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

更衣が喪服で参内していたのをご覧になって

延喜御歌

年が寄るとこのようにもなるものだ。

墨染の喪服を着ているこの子は、

わたしの思っているという子なのか、

それとも別の子なのか。

どうもはっきりしない。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;更衣(女御に次ぐ女官)が喪服を着て

参内していたのを見て詠まれた歌。

 

 

作者;醍醐天皇

 

 

年齢を重ねてくると

身体をこわすこともあるけれど

 

(亡くなった原因は)

そのためだろうか、

どうだろうか…。

 

喪服のその人(更衣)は

いったいこれはどういうことかと思う…と、

嘆き、

苦しそうな表情をしていました。

 

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

醍醐天皇:885年1月18日〜930年9月29日(享年46)。

在位:897年7月3日〜930年9月22日。

宇多天皇の第一皇子。

 

ぶく:喪服。喪に服すること。喪中。

 

にて:(時間・場所)〜で。〜において。(手段・方法)〜で。〜によって。(原因・理由)〜で。〜ので。〜により。(資格・役割)〜で。〜として。(状況・事情)〜で。

 

まゐる:(高貴な人の元へ)参上する。参内する。(寺社などに)お参りする。参詣する。(妃として)宮中に入る。入内する。参ります。献上する。〜し申し上げる。〜して差し上げる。貴人の部屋の格子をおあげする。おさげする。召し上がる。〜なさる。お〜になる。

 

とし:一年。歳月。多年。年齢。季節。時候。穀物。稲。

とし:するどい。鋭利だ。

とし:すばしこい。俊敏だ。感覚がするどい。鋭敏だ。

とし:速い。激しい。時期や時間が早い。

 

ふ:時間が過ぎる。月日がたつ。通る。通っていく。経験する。段階をふむ。

 

かく:このように。こう。こんなに。

かく:馬に乗って走る。

かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。

かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。

かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。

かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。

かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。

 

あり:存在する。いる。ある。生きている。その場にいる。居合わせる。時間が過ぎる。経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。

 

ある:生まれる。出現する。

ある:荒々しくなる。荒廃する。すさむ。興ざめする。

ある:遠のく。離れる。

 

すみ:墨。

すみぞめ:黒や灰色に染めること。僧衣。喪服の色。

 

すむ:居住する。男が女のもとに婿として通う。

すむ:透き通る。曇りがなくなる。清らかに明るく輝く。さえる。響き渡る。心に迷いがなくなる。心が静まる。落ち着いている。上品である。人の気配がなくなる。ひっそりとする。

 

そむ:〜し始める。

そむ:染まる。影響される。感化される。心に深く感じる。心に深くしみこむ。

 

こ-:小さい。細かい。幼い。ちょっと。少し。

こ-:故。その人が亡くなっていることを表す。

こ-:色の濃い様子を表す。

-こ:人に対して愛情や親しみを込めて呼ぶのに用いる。その仕事に従事する人の意を表す。(人の名前の下について)親しみを表す。

こ:子ども。幼い者。相手を親しんで呼ぶ語。多く男性から愛する女性に対して用いられる。鳥などの卵。

こ:かいこ。

こ:かご。

こ:これ。ここ。

 

こは-:硬い、厳しい、強い、怖いなどの意表す。

こは:(意外なことへの驚きや感動を表して)これはまあ。いったいこれは。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

てふ:蝶。

てふ:〜という。

でふ:折り本。折り手本。本・屏風などを数える語。石碑などに彫られた古人の筆跡などを紙に写しとり、折り本にしたもの。

 

それかあらぬか:それなのか、それではないのか。そのためかどうか。そうであるか、そうでないか。

 

それ:そのこと。それ。その場所。その時。ある。なにがし。あなた。その人。そもそも。いったい。ほら。ねえ。

 

そる:意外な方へ向かう。それる。気持ちが他の方へ向かう。気がそれる。

 

あらぬ:別の。ほかの。違った。専門外の。望ましくない。不都合な。あってはならない。思いがけない。意外な。