《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

840

左近中将通宗(みちむね)が墓所(むしょ)にまかりてよみ侍りける

土御門内大臣

後(おく)れゐて見るぞ悲しきはかなさを憂(う)き身(み)の跡となに頼みけん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

左近中将通宗の墓所に行って詠みました歌

土御門内大臣

生き残っていて、

わが子の墓を見るのは悲しいことだ。

命のはかなさの印である墓を、

つらいわが身の死後の跡として、

わが子が見てくれるものと、

どうして頼みにしていたのであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;私の長男・源通宗のお墓に行って

詠みました歌。

 

作者;源通親

 

 

息子に先立たれました。

 

この世界に取り残されて

息子のお墓を見るのは

悲しく、むなしく、残念でなりません。

 

儚く散って逝った息子に

辛いことがある身の上(=私)の

跡継ぎだなどと

なぜ期待していたのだろうか。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

土御門内大臣:源通親:1149年〜1202年10月21日(享年54)。

1170年1月18日から右近衛権中将

後白河天皇、二条天皇、六条天皇、高倉天皇、安徳天皇、

後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。

父は、源雅通。

 

源通宗(みちむね):1168年〜1198年5月6日(享年31)。

源通親の長男。

高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。

 

くれゐる:取り残されている。後に残っている。

 

おくる:遅れる。遅くなる。取り残される。後に残る。先立たれる。死に遅れる。髪がまだ伸びない。劣る。乏しい。

おくる:送り届ける。見送る。葬送する。暮らす。過ごす。贈り物をする。死後に冠位を授ける。

 

ゐる:座る。しゃがむ。とどまる。波風がおさまる。住む。いる。存在する。

ゐる:伴う。ひきつれる。携える。携帯する。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。

 

はかなし:思い通りにならない。期待外れだ。心細い。弱々しい。もろい。頼りにならない。あっけない。無常だ。つかの間だ。たいしたことではない。幼い。未熟である。あさはかだ。みすぼらしい。卑しい。

 

はかなし:墓無し

 

うきみ:辛いことがある身の上。

 

うし:つらい。情けない。憂鬱だ。わずらわしい。気が進まない。憎らしい。うらめしい。つれない。薄情だ。

 

み:美しい。立派な。

み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。

 

あと:後ろ。後方。背後。のち。以後。死後。

あと:足の方。足元。足跡。往来。行く先。行方。形跡。痕跡。遺跡。先例。しきたり。手本。筆跡。筆のあと。家の跡継ぎ。形見。

 

なに:なにもの。なにごと。どのようなもの。なぜ。どうして。

 

たのめ:頼りに思わせること。あてにさせること。期待させること。

たのむ:手ですくって飲む。

たのむ:期待する。あてにする。主人として仕える。身を託す。信頼する。

 

けむ:〜ただろう。〜たのだろう。〜たのだろうか。どうして〜たのだろうか。〜たとかいう。〜たとか聞く。〜たような。〜たという。

 

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。