《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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嘆くこと侍りける人、「問はず」と恨み侍りければ
西行法師
あはれとも心に思ふほどばかりいはれぬべくは問ひこそはせめ
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
縁者の死という、悲しむことのありました人が、
「弔問してくれない」と恨んでいましたので
西行法師
ああ気の毒だ、とわたしの心に思う程度ぐらい、
言葉に出して言うことができるようであるならば、
弔問はするでしょう。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;血縁者が亡くなって嘆き悲しんでいる人が、
「弔問に来てくれない」と愚痴をこぼしていたので
詠みました歌。
作者;西行法師
心の中で
悲しく、寂しく、気の毒だなどと
思うほどには
言葉に出して
その気持ちを表現することができないのです。
(=思いが強すぎて、
気持ちを言葉にするのが難しいのです。)
弔問だけはしようと
思っているのだけれど…。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
西行法師:1118年〜1190年2月16日(享年73)。
1140年:出家して西行法師と号する。
1149年:高野山に入る。
ゆかり:関係やつながりがあること。縁。縁故。血縁。または、その人。縁者。
とふ:尋ねる。聞く。様子や安否を尋ねる。問いただす。詰問する。訪問する。見舞う。弔う。弔問する。
とぶ:空中を舞う。飛び上がる。跳躍する。走る。
うらみ:恨めしく、憎いと思うこと。怨恨。心残りで諦められないと思うこと。未練。悲しみ。嘆き。悲嘆。
うらみ:入り江。船でかいが添いに巡り進むこと。
うらむ:不満に思う。恨みに思う。憎く思う。悲しむ。恨み言をいう。不平不満を訴える。ぐちをこぼす。恨みを晴らす。仇討ちをする。仕返しをする。虫が悲しげに鳴く。風が悲しげな音を立てる。
うら:心。思い。
うら:占い。
うら:入り江。湾。海辺。海岸。
うら:裏面。内部。裏布。
あはれ:しみじみと心を動かされる。感慨深い。しみじみとした風情がある。情がこまやかだ。情が深い。愛情が豊かだ。いとしい。かわいい。素敵だ。関心だ。立派だ。悲しい。寂しい。気の毒だ。かわいそうだ。尊い。ありがたい。しみじみとした感動・情趣・風情。悲しさ。寂しさ。哀愁。愛情。人情。
とも:友人。仲間。従者。連れ。
とも:たとえ〜ても。仮に〜ても。いくら〜ても。〜ともよ。〜てたまらない。
こころ:心。意識。精神。気持ち。感謝。性格。性分。愛情。思いやり。意志。意向。思慮。判断。道理。心構え。用意。趣。風情。情趣。本質。事情。意味。
ころ:時分。ころおい。季節。〜もの間。
ころ:女性や子どもを親しんでいう語。
おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。
おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。
ほど:とき。間。ころ。時分。しばらくの間。期間。年月。月日。距離。長さ。大きさ。広さ。高さ。あたり。付近。身分。間柄。年齢。程度。様子。ありさま。具合。(程度・範囲)〜くらい。
ばかり:〜くらい。〜ほど。〜ころ。〜だけ。〜ばかり。
いふ:言葉で表現する。言葉で伝える。言う。名付ける。称する。呼ぶ。噂をする。評判になる。詩歌をよむ。言いよる。求婚する。求愛する。鳴く。区別する。わきまえる。
いはれ:事物について言われていること。由来。由緒。わけ。理由。
いはれぬ:(言うことができない意から)わけが分からない。道理に合わない。無理な。(中世以降)余計な。無用な。
べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。
せむ:するだろう。するつもりである。しよう。
せむ:近づく。迫る。押し詰まる。ぴったりと身につける。
せむ:責める。悩ます。責める。とがめる。なじる。せがむ。ねだる。せきたてる。追求する。求める。
む;~だろう。~よう。~しようではないか。~としたら。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『山家集』の詞書、
「ゆかりにつけてものを思ひける人のもとより…」。
結句、「問ひこそもせめ」。
治承三十六人