《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

835

前大僧正慈円

われもいつぞあらましかばと見し人をしのぶとすればいとど添ひゆく

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

わたしもいつ死ぬことか。

この世に生きていてくれたらうれしいだろうに、

残念だ、と思って見た人を思い慕うとすると、

そういうひとの数がいよいよ増していく。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;「無常(人生が儚いこと)」のテーマで歌を詠みました。

 

作者;慈円

 

 

私もいつかはこの世を離れていくのだから…

と思うし、

 

また、

 

私もいつか、

愛する人と死に別れる日が来るのだろう…

と思うと

心が思い乱れます。

 

親しく付き合った人や

夫婦として共に過ごした人に先立たれたら

 

きっと

いつまでも懐かしく思い慕い、

恋しい気持ちをこらえるのだろうな…と

思うので

 

(生きているうちは)

ますます一層、

そばにいて

ずっと一緒に過ごしたいと思いますよ。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

慈円:1155年4月15日〜1225年9月25日(享年71)。

歴史書「愚管抄」を記した天台宗の僧。

1192年、38歳で天台座主。

九条(藤原)兼実は同母兄。

 

われ:わたくし。自分自身。おまえ。

 

わる:砕ける。裂ける。割れる。分かれる。別々になる。心が乱れる。思い乱れる。秘密がばれる。露見する。押し分けて前に進む。打ち破る。

 

いつ:凍りつく。いてつく。

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。〜始める。

いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。

 

あらまし:前もっての計画。心づもり。予定。おおよそのこと。あらすじ。概略。

あらまし:荒々しい。けわしい。乱暴だ。

あらまし:(事実に反することを想像し、それを望んで)いればよかったのに。〜だったらよかったのに。

 

ば:もし〜ならば。〜ので。〜だから。〜すると。〜したら。〜するといつも。〜と一方では。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

しのぶ:人目につかないようにする。隠す。秘密にする。感情を抑えてたえる。気持ちをこらえる。我慢する。

しのぶ:思い慕う。恋い慕う。懐かしく思う。美しさや素晴らしさをほめたたえる。賛美する。

しのぶ:恋心の乱れ。

 

死+のぶる

のぶ:長くなる。伸びる。広がる。期日が伸びる。延期になる。逃げ延びる。気持ちがのびのびする。ゆったりする。

 

いとど:いよいよ。いっそう。ますます。そのうえさらに。ただでさえ〜なのにさらに。

 

そふ:加わる。そばにいる。付き添う。夫婦としてつれそう。ともに暮らす。

 

ゆく:赴く。出かける。その場所を離れる。立ち去る。通り過ぎる。通過する。雲や水が流れる。流れ去る。年月が過ぎる。経過する。死ぬ。亡くなる。逝去する。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

あらましかば:「あらましかばうれしからまし」の省略表現。

 

『拾玉集』巻六、「詠百首和歌」の「雑二十首」中の作。

初句「われもいづら」。

 

慈鎮和尚自歌合