《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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前大僧正慈円
蓬生(よもぎふ)にいつか置くべき露の身は今日の夕暮(ゆふぐれ)明日(あす)のあけぼの
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
蓬生の墓所にいつ葬られることであろうか。
はかないこの身は。
今日の夕暮なのか、明日の曙なのか。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;「無常(人生が儚いこと)」のテーマで歌を詠みました。
作者;慈円
雑草が生い茂って荒れ果てた墓地に
露のような大粒の涙を流しながら
いつか置かれるであろう
露のように儚いこの身体。
私の身体が墓地に埋葬されるのは
(=亡くなるのは)
今日の夕暮れ時かもしれないし
明日の明け方かもしれないよね。
(「夕暮れ」=
「心が乱れ、涙で目の前が暗くなる夕暮れ時」の意味を含む。
「明日のあけぼの」=
「容色や勢いが衰える明け方」の意味を含む。)
人が亡くなる時が
今日なのか、明日なのか、
夕暮れ時なのか、明け方なのか、
それは、
誰にも分からないものです。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
慈円:1155年4月15日〜1225年9月25日(享年71)。
歴史書「愚管抄」を記した天台宗の僧。
1192年、38歳で天台座主。
九条(藤原)兼実は同母兄。
よもぎ:植物の名。草餅やもぐさに用いる。荒廃した家を表現するのに用いる。
よも:東西南北。前後左右。四方。あちらこちら。至る所。あたり一帯。
よもぎふ:よもぎが生い茂ったところ。雑草が生い茂って荒れ果てたところ。
もぎ:喪着:喪服
いつか:いつ〜か。いつになったら〜か。早く〜したい。いったい、いつ〜か(いや、〜ない)。いつの間に〜か。いつかそのうちに。
いつ:凍りつく。いてつく。
いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。〜始める。
いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。
おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。
おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。
べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。
つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。
のみ:〜だけ。〜ばかり。とりわけ。特に。ただもう〜する。ひたすら〜である。〜するばかり。
のむ:頭を垂れて祈る。懇願する。
み:美しい。立派な。
み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。
けふ:今日。
げふ:仕事。職業。
ゆふ:夕方。
ゆふ:結ぶ。しばる。ゆわえる。髪を結ぶ。髪を整える。組み立てる。
くる:目の前が暗くなる。目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れ惑う。理性がなくなる。
くる:日が暮れる。年や季節が終わる。
くる:与える。やる。くれる。
くる:たぐる。順に送る。順にめくる。
くれ:来れ。
あす:浅くなる。干上がる。色褪せる。容色や勢いが衰える。荒廃する。
あけぼの:明け方。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『拾玉集』巻一、
1187年の「厭離(おんり)百首」の「雑五十首」中の作。
『慈鎮和尚自歌合』には、題「無常」。