《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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前大僧正慈円

みな人の知り顔(がほ)にして知らぬかなかならず死ぬるならひありとは

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

前大僧正慈円

誰も皆、知っている様子をしていて、

知ってはいないことよ。

かならず死ぬという定ったならわしがあるとは。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;「無常(人生が儚いこと)」のテーマで歌を詠みました。

 

作者;慈円

 

 

どの人もみんな

知っているような顔をしているけれど

実は知らないことだよ。

 

必ずいつかは寿命が尽きて

永遠の眠りにつくことが

人の定めであるとは。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

慈円:1155年4月15日〜1225年9月25日(享年71)。

歴史書「愚管抄」を記した天台宗の僧。

1192年、38歳で天台座主。

九条(藤原)兼実は同母兄。

 

みな:全部。みんな。すっかり。ことごとく。

 

みなす:見なす。見届ける。世話をする。育て上げる。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

しりがほ:知っているような顔つきやそぶりをすること。知ったかぶり。

 

しる:愚かになる。ぼける。ぼんやりとなる。物好きである。いたずら好きである。

しる:理解する。わきまえる。経験する。体験する。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。

しる:統治する。治める。領有する。

 

かほ:顔面。顔立ち。容貌。顔つき。表情。身体つき。姿かたち。容姿。物の表面。おもて。面目。対面。かおぶれ。

 

〜がほ:いかにもそのような様子をしている。そのように見せている意。

 

かならず:きっと。たしかに。必ず。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。例外なく〜とは限らない。

 

しぬ:息が絶える。寿命がつきる。命を失う。

 

ぬる:濡れる。寝る。

 

ならひ:慣れること。習慣。しきたり。世の常。定め。きまり。言い伝え。由緒。

 

あり:存在する。いる。ある。生きている。その場にいる。居合わせる。時間が過ぎる。経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。

 

とは:永遠。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『拾玉集』巻二、「楚忽第一胆百首」中の作、題「無常」。

家集に結句「別れありとも」。

 

慈鎮和尚自歌合