《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

831

無常(むじやう)の心を

西行法師

いつ嘆きいつ思ふべきことなれば後(のち)の世(よ)知らで人の過ぐらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「無常」の趣を

西行法師

いつ今生の無常を悲しみ、

いつ後世の幸福を思わなければならないというので、

後世のたいせつさに気付かずに、

人が月日を過ごしているのであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;無常の心(=人生の儚さ)を歌に詠みます。

 

作者;西行法師

 

 

人はいつ

この世を離れることになるのか

分からないものです。

 

ふだんから

人生の儚さを悲しみ嘆き、

 

また、

 

ふだんから

亡き人を懐かしく回想し

苦しく思っているのに

 

どうして人は

あとどれくらい寿命があるのか

知らないままで

 

人生を過ごしていくのだろう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

西行法師:1118年〜1190年2月16日(享年73)。

1140年:出家して西行法師と号する。

1149年:高野山に入る。

 

むじやう:万物は生滅変化して、少しの間も同じ状態であることがないこと。万物が永久不変ではないこと。人生の儚さ。転じて死。

 

いつ:凍りつく。いてつく。

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。〜始める。

いつ:どの時。いつ。いつも。ふだん。

 

なげく:長い息をする。ため息をつく。悲しむ。悲しんで泣く。嘆願する。愁訴する。こいねがう。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。

 

こと:言葉。言語。うわさ。評判。便り。消息。和歌。

こと:行為。動作。ふるまい。行事。仏事。儀式。仕事。任務。政務。出来事。現象。一大事。事件。重大なこと。事情。わけ。意味。様子。ありさま。食事。〜すること。

こと:別のもの。違うもの。

こと:琴。琴の演奏。

こと:違っている。異なっている。格別だ。特別だ。格別に優れている。

 

なれば:〜だから。〜なので。

 

なる:生まれる。生じる。実をむすぶ。

なる:成立する。成就する。変わる。落ちぶれる。達する。おいでになる。

なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。使い古す。くたびれる。

なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。

 

のち:あと。以後。次。将来。未来。子孫。末裔。死後。来世。のちの世。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

しる:愚かになる。ぼける。ぼんやりとなる。物好きである。いたずら好きである。

しる:理解する。わきまえる。経験する。体験する。世話をする。面倒をみる。交際する。つきあう。分かる。世間に知られている。

しる:統治する。治める。領有する。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

すぐ:通過する。経過する。暮らす。生活する。終わりになる。超過する。まさる。人が死ぬ。物が消える。

 

らむ:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『西行法師家集』の詞書、「述懐の心を」。