《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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母の思ひに侍りけるころ、

またなくなりにける人のあたりより

問ひて侍りければ、遣はしける

清輔朝臣

世の中は見しも聞きしもはかなくてむなしき空の煙(けぶり)なりけり

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

母の喪に服していましたころ、

ほかの亡くなってしまった人の身寄りの人から

弔問してきましたので、詠み贈りました歌

清輔朝臣

世の中は、見た人も伝え聞いた人も、

みな無常で、虚空に立ちのぼる煙であることです。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;母の喪中に、

ほかの家族を亡くした人の身寄りから

弔問して来られたので、

歌を詠んで持っていってもらいました。

 

作者;藤原清輔

 

 

この世で過ごす人の一生は

 

自ら目にしても、

人から聞いても、

 

弱々しく

あっけなく

儚いものですね。

 

儚く無益な空の煙のように

 

無常で甲斐がない

火葬の煙になってしまうのですから。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原清輔:1104年〜1177年6月20日(享年74)。

崇徳天皇、近衛天皇、後白河天皇、

二条天皇、六条天皇、高倉天皇に仕えた。

母は、高階能遠の娘。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。

 

また:再び。もう一度。重ねて。同様に。同じく。やはり。他にもう一つ。別に。他に。ならびに。および。その上に。それに加えて。さらに。そして。あるいは。一方では。それから。そこで。

 

あたり:その周辺一帯。付近。近所。

あたり:ぶつかること。触れること。手触り。感触。仕返し。報復。対応の仕方。

 

とふ:尋ねる。聞く。様子や安否を尋ねる。問いただす。詰問する。訪問する。見舞う。弔う。弔問する。

とぶ:空中を舞う。飛び上がる。跳躍する。走る。

 

よのなか:世間。社会。現世。この世。俗世間。浮世。評判。名声。天皇の治世。御代。生活。身の上。境遇。世間なみ。世の常。夫婦の仲。外界。自然の様子。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

なか:内部。内側。真ん中。中央。途中。中旬。中位。中等。多くのもの、人のうちのひとつ。きょうだいの二番目。関係。間柄。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

きく:天皇家の象徴。

きくのしたみづ:中国の南陽・甘谷の、菊をひたした水を飲んだ人々が、みな長寿を保ったという故事による。

きく:うまく働く。役に立つ。上手である。優れている。

きく:聞いて知る。聞いて思う。聞き入れる。尋ねる。問う。味や香りを試す。匂いをかぐ。吟味する。

きく:菊。奈良時代、中国から渡来した。平安時代より秋を代表する花のひとつ。襲の色目。菊の花や葉を用いた文様。

 

はかなし:思い通りにならない。期待外れだ。心細い。弱々しい。もろい。頼りにならない。あっけない。無常だ。つかの間だ。たいしたことではない。幼い。未熟である。あさはかだ。みすぼらしい。卑しい。

 

はかなし:墓無し

 

かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。

 

むなし:からだ。空っぽだ。死んでいる。魂がない。無情だ。儚い。頼りない。無益だ。無駄だ。甲斐がない。事実無根だ。

 

そら:空。天空。天候。方向。場所。気持ち。心境。心細く不安な気持ち。あたりの雰囲気。たたずまい。

 

そらに:うつろな気持ちだ。うわのそらだ。気もそぞろだ。落ち着かない。根拠がない。よりどころがない。いいかげんだ。はかない。むなしい。かいがない。暗記して。何も見ないで。足元がおぼつかない。

 

けぶり:煙。火葬の煙。死。かまどの煙。暮らし。水蒸気、ほこり、霞など。草木の新芽。苦しみ。苦悩。

けぶる:煙が立ち昇る。ほんのりと霞んで見える。ほんのりと美しく見える。火葬にされて煙になる。

 

なり:〜の音(声)が聞こえる。〜ようだ。〜らしい。〜とかいう。〜そうだ。〜ようだ。

なり:職業。

なり:かたち。形状。格好。身なり。服装。様子。ありさま。

 

なる:生まれ出る。生じる。実がなる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。時や場所に達する。おいでになる。おでましになる。

なる:よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。

なる:営む。

なる:慣れる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『清輔集』によると、

「なくなりにける人」は、花園左大臣源有人の夫人。