《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
829
返し
摂政太政大臣
見し夢にやがてまぎれぬわが身こそ問はるる今日(けふ)もまづ悲しけれ
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
返し
摂政太政大臣
見た、妻のはかない死という夢に、
そのまままぎれて死ぬことのなかったわが身は、
あなたに弔問されている今日も、
まずそのことが悲しくてなりません。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;828番への返歌
作者;藤原良経
妻との結婚生活は
夢のように儚いものでした。
私は
大切な人を亡くして
夢の中にいるように
呆然と過ごしておりました。
夢にまぎれることができない
私のことを案じて
あなたは
弔問に来てくださり、
私の様子を聞きに来てくださったのですね。
そんな今日の日も
とりわけ
悲しく、切なく、寂しく、くやしい気持ちで
いっぱいですよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
藤原(九条)良経:1169年〜1206年3月7日(享年38)。
高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。
1189年7月から権大納言(後鳥羽朝)。
1195年11月から内大臣(後鳥羽朝)。
1204年、太政大臣(土御門朝)。
1206年3月、深夜に頓死。
皇太后宮大夫俊成:藤原俊成
生没年:1114年〜1204年11月30日(享年91)
皇太后宮大夫(後白河院の皇后、藤原忻子(きんし・よしこ)に
就任したのは、1172年2月10日〜。
1176年9月28日出家。
妻は、美福門院加賀。
母は、藤原敦家女。養母は、藤原忠子(姉)。
みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。
みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。
ゆめ:夢。夢のように思われるもの。儚いこと。不確かなこと。迷い。煩悩。
ゆめ:決して。絶対に。まったく。少しも。
やがて:そのまま。引き続いて。すぐに。すぐさま。ただちに。早速。すなわち。つまり。ほかでもなく。とりもなおさず。そっくりそのまま。まったく。さながら。まるで。そのうちに。しばらくして。
まぎる:入り混じって区別できなくなる。目立たないように何かをする。ひっそりと行動する。隠れる。他に気を取られてそのことを忘れる。忙しく取りまぎれる。他に差し障りがある。
わがみ:自分のからだ。自分の身の上。自分自身。わたし。お前。
わが:私の。私たちの。私が。
わか:年の若い男の子。幼児。
わか:和歌。
み:美しい。立派な。
み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。
とは:いつまでも変わらない。永遠だ。つねだ。
とふ:尋ねる。聞く。様子や安否を尋ねる。問いただす。詰問する。訪問する。見舞う。弔う。弔問する。
とぶ:空中を舞う。飛び上がる。跳躍する。走る。
けふ:今日。
げふ:仕事。職業。
まづは:初めに。さしあたっては。まったく。とりわけ。
まつ:待つ。松。
まづ:先に。最初に。ちょっと。とりあえず。実に。どうにも。
かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
秋篠月清集