《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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権中納言道家(みちいへ)母かくれ侍りにける秋、
摂政太政大臣のもとに遣はしける
皇太后宮大夫俊成
限りなき思ひのほどの夢のうちはおどろかさじと嘆きこしかな
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
権中納言道家の母が亡くなってしまいました秋、
摂政太政大臣のもとに詠み贈りました歌
皇太后宮大夫俊成
限りない悲しみに過ごしていられる
喪中の夢心地の間は、
覚させ申し上げまいと、
一人嘆いてきたことです。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;藤原道家の母(=良経の妻)が
亡くなられたその年の秋、
藤原良経のもとへ歌を詠んで贈りました。
作者;藤原俊成
妻を亡くされ、
葬送を終えて
恋しい気持ちで
最大限に嘆き悲しまれたことでしょう。
喪中でいらっしゃった
しばらくの間は
悲しみの気持ちが
限度を超えておられたでしょうから、
(私からはあなたを)
驚かせて夢から覚させないように
=
あなたがきちんと悲しみに浸ることができるように、
心の中だけで
嘆き悲しんできました。
あなたは
しばらくの間、
夢のなかのように
呆然としていらっしゃったことと
存じます。
私もまた
深いため息をついて
悲しみの涙を流し、
過ごしておりましたよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
藤原良経の妻、一条能保の娘の生没年が不明なのですが、
この歌は、妻を亡くしてからしばらく時間がたって、
喪中があけた
秋になってから贈った歌だと言っています。
妻が亡くなったのは、夏頃だったかもしれません。
皇太后宮大夫俊成:藤原俊成
生没年:1114年〜1204年11月30日(享年91)
皇太后宮大夫(後白河院の皇后、藤原忻子(きんし・よしこ)に
就任したのは、1172年2月10日〜。
1176年9月28日出家。
妻は、美福門院加賀。
母は、藤原敦家女。養母は、藤原忠子(姉)。
藤原(九条)道家:1193年6月28日〜1252年2月21日(享年60)。
父は、藤原(九条)良経。
母は、一条能保の娘。
藤原(九条)良経:1169年〜1206年3月7日(享年38)。
高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。
1189年7月から権大納言(後鳥羽朝)。
1195年11月から内大臣(後鳥羽朝)。
1204年、太政大臣(土御門朝)。
1206年3月、深夜に頓死。
かぎり:限度。限界。極限。最大限。最高潮。期間。うち。範囲内。最期のとき。命の果て。臨終。葬送。全て。あるだけ全部。機会。時期。折。規則。決まり。おきて。〜だけ。〜ばかり。
なき:無き。亡き。泣き。鳴き。
おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。
おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。
ほど:とき。間。ころ。時分。しばらくの間。期間。年月。月日。距離。長さ。大きさ。広さ。高さ。あたり。付近。身分。間柄。年齢。程度。様子。ありさま。具合。(程度・範囲)〜くらい。
ゆめ:夢。夢のように思われるもの。儚いこと。不確かなこと。迷い。煩悩。
ゆめ:決して。絶対に。まったく。少しも。
うち:内部。一定の間。生きている間。内心。範囲内。宮中。内裏。天皇。配偶者。国内。仏教。
おどろかす:びっくりさせる。驚かせる。はっとさせる。目をさまさせる。起こす。気づかせる。注意を促す。
なげく:長い息をする。ため息をつく。悲しむ。悲しんで泣く。嘆願する。愁訴する。こいねがう。
こし:濃し:色や味が濃い。紫や赤が強い。濃厚だ。愛情や関係が深い。
こし:来し:来た。
こし:腰:腰。着物の腰にあたる部分。腰紐。山裾。障子や乗り物などの中ほどより下の部分。和歌の第三句の五文字。
こし:輿:乗り物の一種。
こし:越:北陸の国名。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
秋篠月清集