《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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題知らず

大江匡衡(おほえのまさひら)朝臣

夜(よ)もすがら昔のことを見つるかな語るやうつつありし世や夢

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

大江匡衡朝臣

夜どおし、昔のことを夢に見ていたことよ。

その夢の中で人と語り合っていたことが、

現実であるのか、

それとも、その人の生きていた世が夢であったのか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;一条天皇が崩御されました。

死後、しばらくして、

一条天皇が夢に出て来られたので

歌を詠みました。

 

作者;大江匡衡

 

 

夢の中で

一晩中、

故人(一条天皇)とお会いして

昔のことを語り合いました。

 

親しく話をした夢の中が

現実のように思われ、

 

逆に

 

過去、

共に過ごした現世のほうが

儚い夢のように思われますよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

大江匡衡:952年〜1012年7月16日(享年61)。

円融天皇、花山天皇、一条天皇、三条天皇に仕えた。

妻・赤染衛門はおしどり夫婦として知られており、

仲睦ましい夫婦仲により、匡衡衛門と呼ばれた。

 

一条天皇:980年6月1日〜1011年6月22日(享年32)。

在位:986年6月23日〜1011年6月13日。

円融天皇の第一皇子。

母は、藤原詮子。

かねてより譲位の意向を藤原道長に伝えていたが、

慰留されるうちに1011年5月末頃には病が重くなった。

1011年6月13日、譲位。

1011年6月19日、出家。

1011年6月22日、崩御。

 

よも:東西南北。前後左右。四方。あちらこちら。いたるところ。あたり一帯。

よも:(打消を伴って)まさか〜ないだろう。よもや〜まい。

よもすがら:夜通し。一晩中。終夜。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

むかし:過去。以前。故人。前世。

むがし:喜ばしい。うれしい。ありがたい。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

つる:列を作る。連なる。連れ立つ。同行する。引き連れて行く。

 

かたる:話す。節をつけて朗読する。親しくする。懇意にする。

 

かた:方向。方角。場所。部屋。方面。方法。手段。片方。組。ころ。時分。お方。

かた:絵。模様。形跡。痕跡。占いの結果。しきたり。形式。

かた:肩。鳥の翼の付け根部分。

かた:干潟。入り江。

かたし:壊れにくい。固い。厳しい。強い。

かたし:難しい。容易ではない。めったにない。まれである。

 

たる:十分である。価値がある。値する。満足する。

たる:垂れ下がる。ぶら下がる。したたる。

 

うつつ:現実。現存。生身。正気。夢心地。夢まぼろし。

 

ある:生まれる。出現する。

ある:荒々しくなる。荒廃する。すさむ。興ざめする。

ある:遠のく。離れる。

 

あり:存在する。いる。ある。生きている。その場にいる。居合わせる。時間が過ぎる。経過する。栄えて暮らす。優れている。良いところがある。

 

ありそ:岩が多く、波が激しく打ち寄せる海岸。

 

ありし:以前の。昔の。生前の。例の。

 

ゆめ:夢。夢のように思われるもの。儚いこと。不確かなこと。迷い。煩悩。

ゆめ:決して。絶対に。まったく。少しも。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『続詞花集』の詞書に

「一条院かくれさせ給ひて、ほど経て、夢に見奉りてよみ侍りける」