《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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上東門院小少将(こせうしやう)身まかりて後、
常にうち解(と)けて書き交(かは)しける文(ふみ)の、
ものの中に侍りけるを見出(みい)でて、
加賀少納言(かがのせうなごん)がもとに遣はしける
紫式部
たれか世に長らへて見ん書きとめし跡(あと)は消えせぬ形見(かたみ)なれども
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
上東門院の小少将が亡くなってのち、
いつもうち解けて書き交わしていた手紙の、
ものの中にありましたのを見つけて、
加賀少納言のもとに贈りました時の歌
紫式部
誰が、世に生き長らえていて、見ることでしょうか。
書きとどめた筆跡は、いつまでも消えないで残る、
その人の形見なのですが。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;上東門院の小少将(上東門院に仕えた女房)が
亡くなりました。
彼女の死後、常日頃、打ち解けて書き交わしていた手紙が
持ち物の中にありました。
それを見つけて、加賀少納言のもとに
この歌と共に贈りました。
作者;紫式部
(親しくしていた人の
手紙が見つかりましたが)
誰が
この世でずっと長生きをして
(いつまでも懐かしく故人を想って)
この手紙を見るだろうか。
手紙に書き留められた筆跡は
後世まで残り、
消えてなくなることがない形見ではあるが。
(遺品は消えなくても
いつかは
誰もこの手紙を見なくなるし
忘れられていくのでしょうね。)
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
次の歌(818番)と合わせてよむと
会話が繋がります。
紫式部:生没年不詳。973年〜1031年という説がある。
中古三十六歌仙。女房三十六歌仙。
1006年〜1012年頃、一条天皇の中宮、藤原彰子に仕えた。
上東門院小少将:982年頃〜1018年頃(享年37?)。
源扶義の養女。
上東門院(藤原彰子)の女房。
紫式部とは親友で、土御門邸の東北の渡殿にあった
局の隔てを取り払って共有していたと
『紫式部日記』にある。
加賀少納言:詳細不明。
藤原為盛(ためもり)の娘という説がある。
つねに:いつも。ふだん。いつまでも。永久に。
とく:話してわからせる。説明する。
うちとく:氷などがとける。くつろぐ。安心する。男女が慣れ親しむ。隔てがなくなる。うちとける。油断する。気が緩む。紐の結び目などをほどく。解く。解き放つ。
ふみ:文書。手紙。漢文。
ふむ:足で押さえる。踏みつける。踏み歩く。歩く。行く。その地位につく。昇進する。舞う。演じる。経験する。
もの:物体。品物。事情。一般のもの。考えていること。想っていること。話すこと。様子。事態。状況。ある場所。魔物。怨霊。
たれか:誰が。誰か。
よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。
よ:余り。以上。ほか。
よ:私。
よ:夜。
なから:半分。半ば。中程。途中。中心。真ん中。
ながら:〜まま。〜ながら。〜つつ。〜のに。〜けれども。〜のとおりに。〜のままに。すっかりそのまま。
ながらふ:流れ続ける。降り続ける。
ながらふ:長く続く。長く止まる。長生きする。生きながらえる。
なからひ:人間関係。
みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。
み:美しい。立派な。
み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。
む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。
かく:馬に乗って走る。
かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。
かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。
かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。
かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。
かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。
とむ:行かせないようにする。進ませない。止める。制止する。後に残す。とどめる。停泊させる。宿泊させる。
とむ:たずね求める。さがす。
あと:後ろ。後方。背後。のち。以後。死後。
あと:足の方。足元。足跡。往来。行く先。行方。形跡。痕跡。遺跡。先例。しきたり。手本。筆跡。筆のあと。家の跡継ぎ。形見。
きえ:帰依する。神仏や高僧などを深く信仰し、その教えに従い、その力に頼ること。
きゆ:形がなくなる。消える。意識がなくなる。失神する。死ぬ。亡くなる。
かたみ:遺品。記念。
かたみに:互いに。かわるがわる。
かた:方向。方角。場所。部屋。方面。方法。手段。片方。組。ころ。時分。お方。
かた:絵。模様。形跡。痕跡。占いの結果。しきたり。形式。
かた:肩。鳥の翼の付け根部分。
かた:干潟。入り江。
かたし:壊れにくい。固い。厳しい。強い。
かたし:難しい。容易ではない。めったにない。まれである。
なれども:〜ではあるが。〜しかし。
なる:生まれる。生じる。実ができる。実る。
なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。達する。おいでになる。おでましになる。
なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。使い古す。くたびれる。
なる:生業とする。
なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。
なる:断定。伝聞推定
ども:〜が。〜のに。〜けれども。〜てもいつも。〜でも必ず。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
紫式部集