《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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小野宮(をののみや)右大臣身まかりぬと聞きてよめる

権大納言長家(ながいへ)

玉の緒(を)の長きためしに引く人も消ゆれば露にことならぬかな

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

小野宮右大臣が亡くなってしまったと聞いて詠んだ歌

権中納言長家

人々が、命の長い例に引く人でも、

亡くなると、消えやすい露とすこしも違わないことよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;(ご長寿でいらっしゃった)

小野宮右大臣(藤原実資)様が(90歳で)

亡くなられたと聞いて、歌を詠みました。

 

作者;藤原長家

 

 

小野宮右大臣(藤原実資)様は

ご長寿でいらっしゃったので、

 

「長生きのお手本」として

人の心を惹きつけ、

よく噂にのぼっておられました。

 

そんなお方でも

亡くなってしまえば

 

儚く消えてしまう露と同じように

 

ほんのわずかな儚い命だったと

思われることですよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原長家:1005年8月20日〜1064年11月9日(享年60)。

藤原頼通の弟。

父は、藤原道長。

母は、源明子。

1028年2月19日から権大納言。

 

藤原実資:957年〜1046年1月18日(享年90)。

冷泉天皇・円融天皇・花山天皇・

一条天皇・三条天皇・後一条天皇に仕えた。

 

たまのを:玉を貫いてつなぐためのひも。短いことの例え。ほんの少しの間。暫く。命、生命。

 

たま:宝石。真珠。美しいものの例え。涙、露などの例え。

たま:魂。霊魂。涙

 

を:細長く伸びたもの。

 

ながし:(時間的、空間的に)長い。

 

ためし:例。前例。先例。手本。模範。話の種。世間の語り草。証拠。

 

ひく:しりぞく。退却する。後ろに下がる。

ひく:引っ張る。引き寄せる。引き抜く。抜き取る。取り去る。取り外す。引いて張り巡らす。弓を引く。引きずる。導く。連れて行く。心をひきつける。誘う。引用する。線をかく。平にならす。贈り物として与える。入浴する。演奏する。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

きえ:帰依する。神仏や高僧などを深く信仰し、その教えに従い、その力に頼ること。

きゆ:形がなくなる。消える。意識がなくなる。失神する。死ぬ。亡くなる。

 

つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。

 

ことなる:物事が成就する。成功する。その時になる。事が始まる。準備が整う。

ことなる:異なる。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

栄花物語