《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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をさなかりける子の身まかりけるに
源道済(みちなり)
はかなしといふにもいとど涙のみかかるこの世を頼みけるかな
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
幼かった子が亡くなってしまったので
源道済
はかないというにつけても、
いよいよ涙ばかりがこぼれかかる、
こういう無常のこの世を頼みにしていたことよ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;時々、男女の情を交わしていた女性が
子を産んだが、
その子が幼くして亡くなってしまったと聞いて
歌を詠みました。
作者;源道済
幼い子の命は
弱々しく、儚く、もろいものだと言うけれど、
気の毒で、悲しく、残念でなりません。
人の死は
ただでさえ悲しいのに
幼い子が亡くなると
さらに涙が
波のように
溢れ出て落ちかかります。
こんな無常な世の中を
そして、
こんな私のことを頼りにして
生まれてきてくれたというのに…。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
源道済(みちなり):?〜1019年。
一条天皇・三条天皇に仕えた。
中古三十六歌仙。
子に、懐国・親範の名があるが、詳細は不明。
ものいひ:ものを言うこと。ものの言い方。言葉遣い。評判。うわさ。非難を込めた言い方にも用いる。口の達者な人。議論好きな人。文句をつけること。口喧嘩。言い争い。
ものいふ:口に出していう。口をきく。気の利いたことをいう。秀句やしゃれなどをいう。男女が情を通わせる。
をさなし:幼少だ。いとけない。小さい。子供っぽい。幼稚だ。思慮分別がない。
はかなし:思い通りにならない。期待外れだ。心細い。弱々しい。もろい。頼りにならない。あっけない。無常だ。つかの間だ。たいしたことではない。幼い。未熟である。あさはかだ。みすぼらしい。卑しい。
はかなし:墓無し
かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。
いふ:言葉で表現する。言葉で伝える。言う。名付ける。称する。呼ぶ。噂をする。評判になる。詩歌をよむ。言いよる。求婚する。求愛する。鳴く。区別する。わきまえる。
いとど:いよいよ。いっそう。ますます。そのうえさらに。ただでさえ〜なのにさらに。
なみだ:涙
なみ:波。波のような起伏をするもの。しわ。
なみ:並ぶ様子。並び。列。続き。同類。同等。共通する性質。
なみ:無み。〜がないために。
のみ:〜だけ。〜ばかり。とりわけ。特に。ただもう〜する。ひたすら〜である。〜するばかり。
のむ:頭を垂れて祈る。懇願する。
かかる:ぶら下がる。もたれかかる。よりかかる。頼みにする。世話になる。頼る。すがる。目につく。心にとまる。船が停泊する。覆い被さる。雨や雪が降りかかる。涙などが落ちてかかる。雲などがなびく。関係する。かかわる。かかりっきりになる。熱中する。悪いことが身に降りかかる。巻き添えをくう。出くわす。危害をうける。殺される。傷つけられる。攻めかかる。襲いかかる。ある場所にさしかかる。通りかかる。いる時点に至る。
かかる:このように。こんな。
かかる:ひびやあかぎれができる。
よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。
よ:余り。以上。ほか。
よ:私。
よ:夜。
たのめ:頼りに思わせること。あてにさせること。期待させること。
たのむ:手ですくって飲む。
たのむ:期待する。あてにする。主人として仕える。身を託す。信頼する。
ける:〜た。〜たのだった。〜たことよ。
ける:蹴る。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『道済集』の詞書は、
「時々ものひし女の、子うみて、その子なくなりぬと聞きて」。