《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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公忠(きんただ)朝臣身まかりけるころ、
よみ侍りける
源信明(さねあきら)朝臣
ものをのみ思ふ寝覚(ねざ)めの枕には涙かからぬ暁(あかつき)ぞなき
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
公忠朝臣が亡くなってしまったころ、詠みました歌
源信明朝臣
物思いばかりして、寝ては目覚める枕には、
涙のかかっていない暁はないことだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;父・源公忠が亡くなった頃、歌を詠みました。
作者;源信明
亡き父のことを思い出し、
愛しく、懐かしく
生前の姿を回想して
物思いにふけるばかりです。
悲しみに暮れて
涙が波のように流れ落ちます。
明け方、
目が覚めると
枕に
涙がかからない日はありません。
あかつき(仏に供える水を入れる器)に水を供えて
仏壇に灯明をともし、
重々しい気持ちで
頭を垂れて
泣きながら
神仏に祈願するばかりです。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
源信明:910年〜970年(享年61)。
朱雀天皇、村上天皇、冷泉天皇に仕えた。
三十六歌仙。
父は、源公忠。
女流歌人・中務と親密な関係にあった。
源公忠:889年〜948年10月28日(享年60)。
948年は、天暦二年。
911年昇殿。
945年病気により辞任。
醍醐天皇、朱雀天皇に仕えた。
もの:物体。品物。事情。一般のもの。考えていること。想っていること。話すこと。様子。事態。状況。ある場所。魔物。怨霊。
ものおもふ:もの思いに耽る。思いなやむ。
おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。
おも:母。母親。うば。
おも:顔。顔つき。表面。面影。
おもし:重みをかけるもの。人々を抑え沈めて世をまとめる力。その力を持つもの。重鎮。
おもし:重い。重量がある。地位や評価が高い。尊い。重要だ。価値がある。程度が並外れている。重大だ。ひどい。落ち着いている。どっしりしている。重々しい。
のみ:〜だけ。〜ばかり。とりわけ。特に。ただもう〜する。ひたすら〜である。〜するばかり。
のむ:頭を垂れて祈る。懇願する。
ねざめ:眠りから覚めること。夜中や明け方に目を覚ますこと。
まくら:枕。寝ること。頭の方。
まく:枕とする。枕にして寝る。抱いて寝る。結婚する。
まく:絡み付ける。巻きつける。巻き上げる。丸める。
まく:準備する。用意する。時期を待ち受ける。待っていた時期になる。
まく:撒き散らす。植物の種を植える。
まぐ:曲げる。道理や精神を歪曲する。
まぐ:探し求める。
くら:人が座る場所。物を置く台。
くらし:暗い。愚かだ。精通していない。真理を悟っていない。不足だ。欠けている。
くらす:心を暗くする。悲しみに暮れさせる。涙で目の前が暗くなる。
くらす:日が暮れるまで過ごす。月日を送る。生活する。日が暮れるまで〜する。
なみだ:涙
なみ:波。波のような起伏をするもの。しわ。
なみ:並ぶ様子。並び。列。続き。同類。同等。共通する性質。
なみ:無み。〜がないために。
かかる:ぶら下がる。もたれかかる。よりかかる。頼みにする。世話になる。頼る。すがる。目につく。心にとまる。船が停泊する。覆い被さる。雨や雪が降りかかる。涙などが落ちてかかる。雲などがなびく。関係する。かかわる。かかりっきりになる。熱中する。悪いことが身に降りかかる。巻き添えをくう。出くわす。危害をうける。殺される。傷つけられる。攻めかかる。襲いかかる。ある場所にさしかかる。通りかかる。いる時点に至る。
かかる:このように。こんな。
かかる:ひびやあかぎれができる。
あかつき:太陽が昇る前のほの暗いころ。夜明け前。明け方。未明。
あかつき:仏に供える水を入れる器。
あかつ:分ける。分配する。分散する。
あかし:ともしび。あかり。灯明。
あかし:光が明るい。心が清らかだ。誠実だ。曇りなく公明だ。いつわりがない。色が赤い。
あかす:眠らないで夜を明かす、過ごす。灯火をともして明るくする。不明な点を明らかにする。秘密などを打ち明ける。
なき:亡き。泣き。鳴き。無き。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『信明集』には、
詞書「右大弁なくなり給ひて、人々忌にこもりてあるほどに」。
底本に、第二句「思ふ寝覚めの」。「思ひ寝覚めの」とも読める。