《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

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廉義公(れんぎこう)の母なくなりて後(のち)、

女郎花(をみなへし)を見て

清慎公(せいしんこう)

女郎花見るに心はなぐさまでいとど昔の秋ぞ恋しき

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

廉義公の母が亡くなってのち、女郎花を見て

清慎公

女郎花を見るにつけ、心は慰められないで、

いよいよ昔の秋が恋しく思われることだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;廉義公の母(=作者の妻)が亡くなってのち、

女郎花を見て歌を詠みました。

 

作者;清慎公(藤原実頼)

 

 

若くて美しかった妻を亡くしました。

 

秋になり、

美しい女郎花の花が咲いています。

 

彼女亡きあと、

女郎花を見ても

心が晴れることはありません。

 

いよいよ一層、

故人と過ごした過去の秋が

恋しく思い出されます。

 

彼女が居た場所に

空きができているのを見ると

 

慕わしく、懐かしい気持ちが

一層、募りますよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

廉義公:藤原頼忠:924年〜989年6月26日(享年66)。

父は、藤原実頼。母は、藤原時平の娘。

朱雀天皇、村上天皇、冷泉天皇、

円融天皇、花山天皇、一条天皇に仕えた。

 

清慎公:藤原実頼:900〜970年5月18日(享年71)。

朱雀朝で、939年から大納言・944年から右大臣。

 

をみなへし;秋に小さな黄色の花を傘状に咲かせる植物。秋の七草のひとつ。和歌では多く女性を例える

をみな;若い女性。美女。女性。

へす;押しつぶす。相手を圧倒する。負かす。

なふ;手足に力が入らずぐったりする。萎える。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

こころ:心。精神。気持ち。心情。感情。性格。気立。意志。意向。愛情。思いやり。なさけ。思慮。分別。趣。風情。心構え。用意。本質。趣旨。中心。

ころ:女性や子ども。

 

なぐさむ:心が晴れる。気が紛れる。心が休まる。気分を晴らす。からかう。もてあそぶ。

 

いとど:いよいよ。いっそう。ますます。そのうえさらに。ただでさえ〜なのにさらに。

 

むかし:過去。以前。故人。前世。

むがし:喜ばしい。うれしい。ありがたい。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

こひ:懐かしく恋い慕うこと。思い慕うこと。異性を思慕する感情。恋愛。

こひし:強く心が惹きつけられる。慕わしい。懐かしい。恋しい。

こふ:神仏に乞い願う。祈願する。求める。欲しがる。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『伊勢集』では伊勢作。

『古今六帖』では作者不明。

『和漢朗詠集』では清慎公の作とする。