《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
776
御返し(おほんかへし)
上東門院
思ひきやはかなく置きし袖の上(うへ)の露をかたみにかけんものとは
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
御返し
上東門院
思ったでしょうか。
思いもしませんでした。
はかなく置いた袖の上の露を形見として、
たがいに、袖の上に涙をかけようとは。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;775番への返歌
作者;上東門院(藤原彰子)
若くして亡くなった
小式部内侍の
唐衣の袖の模様に
露が織り込まれています。
彼女の命は
露のようにあっけなく消えてしまいました。
形見となった着物の上に
露のような大粒の涙がこぼれ落ちます。
永遠の世界に逝ってしまった彼女の形見を
こうして
あなたとかわるがわる
肩にかけて
泣きながら
切なく悲しい話をすることになるなんて
思ったであろうか…
いや、思いもしなかったですよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
上東門院:藤原彰子:988年〜1074年10月3日(享年77)。
一条天皇の皇后。
後一条天皇・後朱雀天皇の国母。
紫式部、和泉式部、赤染衛門、伊勢大輔などを従え、
華麗な文芸サロンを形成した。
おもひきや:思ったであろうか(いや、思いもしなかった)。
おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。
はかなし:思い通りにならない。期待外れだ。心細い。弱々しい。もろい。頼りにならない。あっけない。無常だ。つかの間だ。たいしたことではない。幼い。未熟である。あさはかだ。みすぼらしい。卑しい。
はかなし:墓無し
かなし:かわいい。いとしい。心惹かれる。おもしろい。すばらしい。みごとに。うまく。切ない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。貧しい。くやしい。ひどい。残念だ。
おく:起き上がる。立ち上がる。目覚める。寝ないで起きている。
おく:露や霜がおりる。置く。据える。設置する。さしおく。ほおっておく。間隔をおく。隔てる。あらかじめ〜する。
そで:袖。
うへ:上部。高いところ。表面。外見。うわべ。あたり。ほとり。屋根。天皇。天皇の御座所。高貴な人。高貴な人のそば。
つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。
かたみ:遺品。記念。
かたみに:互いに。かわるがわる。
かた:方向。方角。場所。部屋。方面。方法。手段。片方。組。ころ。時分。お方。
かた:絵。模様。形跡。痕跡。占いの結果。しきたり。形式。
かた:肩。鳥の翼の付け根部分。
かた:干潟。入り江。
かたし:壊れにくい。固い。厳しい。強い。
かたし:難しい。容易ではない。めったにない。まれである。
み:美しい。立派な。
み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。
たみ:人民。臣民。庶民。
たむ:ぐるりと回る。めぐる。
たむ:なまる。訛りがある。
かく:馬に乗って走る。
かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。
かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。
かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。
かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。
かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。
もの:物体。品物。事情。一般のもの。考えていること。想っていること。話すこと。様子。事態。状況。ある場所。魔物。怨霊。
とは:永遠。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
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