《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

772

返し

皇嘉門院

さもこそはおなじ袂(たもと)の色ならめ変らぬねをもかけてけるかな

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

返し

皇嘉門院

さぞまあ、わたしと同じような墨染の袂の色なのでしょう。

わたしも、袂に、あなたと変わらない泣く音(ね)を、

涙とともにかけたことですよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;771番への返歌

 

作者;皇嘉門院

 

 

あなた(九条院)様は、

近衛天皇の崩御のあと、

1155年8月に出家されました。

 

私も

1156年10月11日に出家しました。

 

そのように出家した私たちは

 

もう皇室の煌びやかな着物ではなく、

尼僧の着物を着ていますので、

同じ袂の色となりましたね。

 

あなたと同じように

泣き声と涙をも

着物の袂にかけておりますよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

皇嘉門院:藤原聖子(せいし・きよこ):1122年〜1181年12月4日(享年60)。

崇徳天皇の皇后、中宮。

近衛天皇の養母。

父は、藤原忠通。

藤原兼実の姉。

1156年、保元の乱で、

父(忠通)と夫(崇徳天皇)が争うこととなり、

敗れた崇徳天皇は讃岐国へ配流。

聖子は、板挟みになり、1156年10月11日に出家。

1163年、再出家。

 

九条院:藤原呈子(ていし・しめこ):1131年〜1176年9月19日(享年46)。

近衛天皇の中宮。

近衛天皇崩御の翌月(1155年8月)、出家。

 

さも:そのようにも。そんなふうにも。そうも。そのように。そのとおりに。まったく。ほんとうに。いかにも。(下に打消を伴って)たいして。それほどにも。それほど。

 

さもこそ:いかにもそのように(〜だ)。さすがにそのように(〜だろう)。いかにもそう(〜だが)。さすがにそう(〜だろうが)。

 

おなじ:同じだ。等しい。同一である。

 

たもと:袂。

 

いろ:母親が同じ関係にあること

いろ:色彩。色合い。階級によって定められた衣服の色。喪服の色。喪服。顔色。表情。顔立ちや姿。美しい容姿。華美。華やかな色艶。気配。様子。風情。やさしさ。思いやり。情味。恋愛。女性。種類。たぐい。

いろ:天皇が父母の喪のはじめの十三日間こもる仮屋。

 

いろは:うみの母。生母。

 

なり:〜の音(声)が聞こえる。〜ようだ。〜らしい。〜とかいう。〜そうだ。〜ようだ。

なり:職業。

なり:かたち。形状。格好。身なり。服装。様子。ありさま。

 

なる:生まれ出る。生じる。実がなる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。時や場所に達する。おいでになる。おでましになる。

なる:よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。

なる:営む。

なる:慣れる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。

 

かはる:異なる。変わる。月や年が改まる。普通と違う。異なっている。他と交代する。

 

ね:音。鳴き声。泣き声。

 

かく:馬に乗って走る。

かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。

かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。

かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。

かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。

かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

今鏡

 

底本に、「聖子。法性寺殿御女。崇徳院后」と注記。