《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》
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年ごろ住み侍りける女の、身まかりにける四十九日果てて、
なほ山里に籠(こも)りゐてよみ侍りける
左京大夫顕輔(あきすけ)
たれもみな花の都(みやこ)に散り果ててひとりしぐるる秋の山里
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
年来、通っていた女の、
亡くなってしまった後の四十九日の法事が終わって、
そのままやはり、山里に籠っていて詠みました歌
左京大夫顕輔
誰も皆、
にぎやかな都にちりぢり帰っていってしまって、
わたし一人、
時雨に濡れながら涙にくれている秋の山里です。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;長年、妻として共に暮らしていた女性が
亡くなりました。
四十九日の法要が済んだのですが、
そのまま山里に引きこもって、歌を詠みました。
作者;藤原顕輔
法要に来ていた人々も皆、
都に帰っていきました。
また、
共に暮らしていた彼女も
亡くなって、
この世を離れて逝きました。
私の周りにいた人々が
誰もいなくなりました。
秋の山里に
ひとりでいると
ひとりでに
時雨のように
涙がこぼれ続けます。
四十九日が終わったら
人々がいた場所にも
彼女がいた場所にも
空きができて
涙で目の前が暗くなりますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
藤原顕輔:1090年〜1155年5月7日(享年66)。
1139年1月から左京大夫。
『詞花和歌集』の撰者。
としごろ:長年。長年の間。数年来。年齢の程度。歳格好。年配。
すむ:居住する。男が女のもとに婿として通う。
すむ:透き通る。曇りがなくなる。清らかに明るく輝く。さえる。響き渡る。心に迷いがなくなる。心が静まる。落ち着いている。上品である。人の気配がなくなる。ひっそりとする。
みまかる:死ぬ。
はつ:終わる。尽きる。死ぬ。亡くなる。すっかり〜する。
なほ:まっすぐなこと。いつわりのないこと。ふつうに。平凡に。何もしないで。そのまま。
なほ:もとのまま。依然として。なんといってもやはり。さらに。ますます。いっそう。同様に。やはり同じように。それでもやはり。そうはいっても。〜でさえやはり。むしろ。やはりまた。再び。ちょうど。まるで。
やまざと:山中の村里。山荘。
やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。重要な段階。
さと:人里。集落。いなか。自宅。生家。実家。養家。俗世間。
さと:さっと。ぱっと。
こもる:包まれている。囲まれている。ひそむ。隠れ住む。閉じこもる。引きこもる。神社や寺に泊まって祈願する。
こもる:子+もる
ゐる:座る。しゃがむ。とどまる。波風がおさまる。住む。いる。存在する。
ゐる:伴う。ひきつれる。携える。携帯する。
たれ:誰。どの人。
たる:垂れ下がる。ぶら下がる。したたる。したたらす。神仏が恩恵を現し示す。
たる:十分である。相応する。価値がある。値する。満足する。
みな:全部。みんな。すっかり。ことごとく。すべて。
はな:花。薄い藍色。華やかないこと。栄えていること。うつろいやすいこと。上辺だけの美しさ。芸の華やかさ。祝儀。
はな:先端。末端。はし。
はな:鼻。鼻水。風邪。
はなつ:身から離す。手放す。自由にする。逃がす。あける。開く。発する。矢をいる。火をつける。除外する。追放する。流罪にする。
みやこ:皇居のある所。
みやこ:宮の子。
ちる:散る。散らばる。散り落ちる。別れ別れになる。ばらばらになる。世間に広まる。知れ渡る。気が散る。落ち着かない。まとまらない。
ちり:ほこり。わずかなこと。少しの汚れ。わずかな汚点。小さな欠点。この世の汚れ。俗世間。
ちり:散ること。散るもの。
ひとり:ひとり。単身。独身。自然に。ひとりでに。
しぐる:時雨が降る。涙に濡れる。涙ぐむ。
くれ;なにがし。だれだれ
くる;目がくらむ。涙で目が見えなくなる
くる;日が暮れる。終わる。すぎる
くる;くれる。与える。糸を繰る。
あき:7月から9月
あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。
あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
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