《新古今和歌集・巻第八・哀傷歌》

 

757

題知らず

僧正遍昭

末(すゑ)の露(つゆ)もとの雫(しづく)や世の中の後(おく)れ先立(さきだ)つためしなるらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

僧正遍昭

草木の先の露と根本の雫が、

世の中の、人が後れて死に、

先立って死ぬことを示す例であろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;亡くなった人に捧げる歌。

この世の儚さがますます一層、

身に沁みて分かりましたので、歌を詠みました。

 

作者;僧正遍昭

 

 

植物を見ると

枝先に露がついていたり

根本に雫がついていたりします。

 

同じように、

 

人の人生も

若い人が亡くなって

涙を流すこともあれば

 

年上の人が亡くなって

涙を流すこともあります。

 

この世は

 

誰かが先に亡くなり、

誰かが取り残されるもの。

 

枝先の露や

根本の雫は

そのような人の世を例えて

教えてくれているのだろう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

僧正遍昭:816年〜890年1月19日(享年75)。

俗名は良岑宗貞(よしみねのむねさだ)。

六歌仙・三十六歌仙のひとり。

桓武天皇の孫。

844年〜仁明天皇の蔵人。

850年3月、仁明天皇の崩御により出家。

花山の元慶寺を建立。

869年から雲林院の別当を兼ねた。

885年から僧正。

885年、光孝天皇主催で遍昭の七十の賀が行われる。

 

いとど:いよいよ。いっそう。ますます。そのうえさらに。ただでさえ〜なのにさらに。

 

おもひしる:十分にわきまえる。身に染みてわかる。悟る。

 

すゑ:末端。端。枝先。こずえ。道の終わり。山の奥。野の果て。将来。未来。子孫。跡継ぎ。晩年。盛りを過ぎた時期。衰退期。終わりごろ。末期。結果。挙句。結末。末席。下座。下位。

 

つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。

 

もと:根本。よりどころ。基本。根本。幹。以前。かつて。昔。原因。はじまり。起源。上の句。住所。居所。付近。近辺。元手。資金。

 

しづく:水滴。涙。

しづく:沈む。深く沈んでいる。水面に映る。映ってみえる。

しつく:し慣れる。やりつける。し始める。作りつける。嫁がせる。一人前にする。しつける。

 

よのなか:世間。社会。現世。この世。俗世間。浮世。評判。名声。天皇の治世。御代。生活。身の上。境遇。世間なみ。世の常。夫婦の仲。外界。自然の様子。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

 

なか:内部。内側。真ん中。中央。途中。中旬。中位。中等。多くのもの、人のうちのひとつ。きょうだいの二番目。関係。間柄。

 

おくれさきだつ:あるものが後になったり、またあるものが先になったりする。一方が先に死に、もう一方が生き残る。

 

おくれ:遅れること。後に取り残されること。負けること。敗北。劣等。ひるむこと。怖気付くこと。気後れ。後れ毛。後れ髪。

 

さきだつ:前に立つ。先に行く。先に行動をおこす。先んじる。真っ先に起こる。先に死ぬ。前に行かせる。先にいかせる。先行させる。先に死なせる。

 

さき:先頭。先陣。前方。第一。上位。将来。行く末。以前。過去。

さき:幸い。幸福。栄えていること。

さく:遠くへやる。放つ。遠ざける引き離す。

さく:切り離す。割る。引き裂く。

 

 

たつ:立ち上がる。現れる。たちのぼる。飛び立つ。出発する。旅立つ。はっきり見える。時間が過ぎる。高く響く。評判になる。置いてとどまる。位する。位につく。切れる。さえる。喧嘩をする。設ける。設置する。評判をたたせる。

たつ:切り離す。断ち切る。習慣などをやめる。布を切る。

 

ためし:例。前例。先例。手本。模範。話の種。世間の語り草。証拠。

 

なるらむ:〜であるだろう。〜であるのだろう。

 

なる:生まれ出る。生じる。実ができる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。達する。おいでになる。おなりになる。おでましになる。

なる:衣服が体に馴染む。よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。

なる:生計をたてる。営む。

なる:慣れる。習慣になる。慣れ親しむ。打ち解ける。なじむ。

 

らん:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『遍昭集』の詞書、

「世のはかなさいとど思ひ知られて侍りしかば」。

 

『古今六帖』では、作者不明。

 

和漢朗詠集