《新古今和歌集・巻第七・賀歌》
755
建久九年、
大嘗会(だいじやうゑ)悠紀歌(ゆきのうた)、青羽山(あをばやま)
式部大輔光範(しきぶのたいふみつのり)
立ち寄れば涼しかりけり水鳥(みづとり)の青羽の山の松の夕風(ゆふかぜ)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
建久九年、大嘗会悠紀の歌、「青羽山」
式部大輔光範
立ち寄ると、涼しいことだ。
青羽山の、松を吹く夕風は。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1198年11月22日、
土御門天皇の大嘗会(天皇即位後、初めて行われる新嘗祭)にて
悠紀(ゆき)の歌として
「青葉山」を詠みました。
または
題詞:1184年11月18日、
後鳥羽天皇の大嘗会(天皇即位後、初めて行われる新嘗祭)にて
悠紀(ゆき)の歌として
「青葉山」を詠みました。
作者;藤原光範
羽の色が青い水鳥が
波が立ち寄せる
波打ち際に近づくと
涼しくて、
気分がさっぱりするのでしょうね。
水鳥のように
みずみずしく
生き生きとして美しい天皇が
即位されました。
天皇の近くに寄ると
爽やかで潔白な感じがしましたよ。
気分が満ち足りた
瑞兆(めでたい印)を
しっかりとその手につかむ
若い天皇には
永久不変に繁栄する流れが
松に吹く夕風のように
涼しげに吹いてきていますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
『新古今和歌集』では
755番と756番は「建久九年(1198年)」の
同じ大嘗会のことだと詞書にあります。
しかし、
小学館の『新古今和歌集』脚注には
755番は1184年の後鳥羽天皇の大嘗会、
756番は1198年の土御門天皇の大嘗会のことだと
説明されています。
藤原光範:1126年〜没年不詳。
後鳥羽天皇:1180年7月14日〜1239年2月22日(享年60)。
在位:1183年8月20日〜1198年1月11日(4歳〜19歳)。
高倉天皇の第四皇子。
後白河天皇の孫。
安徳天皇の異母弟。
土御門天皇:1196年11月1日(または12月2日生まれ)〜
1231年10月11日(享年37)。
在位:1198年1月11日〜1210年11月25日(3歳〜15歳)。
後鳥羽天皇の第一皇子。
母は、源通親の養女、源在子。
父、後鳥羽天皇の譲位により3歳で即位。
事実上、後鳥羽上皇による院政がしかれていた。
たちよる:波が立って寄せる。打ち寄せる。そば近くによる。近寄る。ちょっと寄る。ついでに訪れる。
たつ:起立する。現れる。立ち上る。飛び立つ。出発する。はっきり見える。時間がすぎる。高く響く。評判になる。止まっている。位につく。切れる。さえる。
たつ:切り離す。断ち切る。習慣を止める。
よる:基づく。原因となる。影響をうける。かかわる。応じる。
よる:近づく。接近する。集まる。よりあう。訪れる。心ひかれる。好意をよせる。頼りにする。寄りかかる。乗り移る。
よる:何本か捻り合わせて一本にする。
すずし:涼しい。澄んで清らかだ。気持ちがさっぱりする。すがすがしい。さわやかだ。潔白だ。
みづとり:水上や水辺に生息する鳥の総称。
みづとり:奈良の東大寺二月堂で、陰暦二月一日から十四日間行われる修二会の中での行事。十二日目の深夜から未明に、堂の下の若狭井から水をくみ、香水とする儀式を行う。お水取り。
みづとりの:歌枕。水鳥が水に浮くことから「うき」に、飛び立つことから「立つ」にかかる。また、水鳥の代表的な「鴨」やそれと同音の地名「賀茂」に、羽色が青いところから「青葉」などにかかる。
みつ:三。みっつ。
みつ:いっぱいになる。充満する。満ちる。満月になる。満潮になる。願望が叶う。充足する。世の中に知れ渡る。いっぱいにする。充満させる。
みず:水。
みづ:みずみずしく生き生きとしていて美しく意。めでたいしるし。瑞兆。
とり:鶏。雉。
とる:照る。
とる:つかむ。しっかりと握る。捕らえる。採取する。収穫する。操作する。奪う。盗む。自分のものにする。支配する。選ぶ。採用する。調子を合わせる。うかがう。推量する。
あをばやま:近江国にあるという。未詳。
あをし:色が青い。人柄や技量などが未熟だ。
やま:山岳。比叡山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたりあおぎみたりするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。
まつ:永久不変。松。待つ。
ゆふ:夕方。
ゆふ:結ぶ。しばる。ゆわえる。髪を結ぶ。髪を整える。組み立てる。
かぜ:空気の流れ。風習。ならわし。伝統。風邪。