《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

753

仁安(にんあん)元年、

大嘗会(だいじやうゑ)悠紀歌(ゆきのうた)奉りけるに、

稲舂歌(いねつきうた)

皇太后宮大夫俊成

近江(あふみ)のや坂田(さかた)の稲(いね)を掛け積みて道ある御世(みよ)のはじめにぞつく

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

仁安元年、大嘗会悠紀の歌を差し上げた時に、稲舂歌

皇太后宮大夫俊成

近江の坂田の稲を掛けて干し、

うず高く積み、

正しい政道の行われる御代のはじめにつくことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1166年11月15日、

六条天皇の大嘗会(天皇即位後、初めて行われる新嘗祭)にて

悠紀(ゆき)の歌を献上した時に

「稲舂(いねつき)の歌」を詠みました。

 

作者;藤原俊成

 

 

「近江」は、

「美しく立派な身分になる」

という意味があります。

 

また、

「坂田」は

「めったいにないほど賢く、優れている」

の意味があります。

 

その「近江の坂田」の稲を

かけ干し、

うずたかく積んでおります。

 

満ち足りて

美しく立派な

六条天皇の御代のはじめに

 

新穀を臼でつくことで

 

六条天皇の御代を

お祝いいたします。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

皇太后宮大夫俊成:藤原俊成

生没年:1114年〜1204年11月30日(享年91)

皇太后宮大夫(後白河院の皇后、藤原忻子(きんし・よしこ)に

就任したのは、1172年2月10日〜。

1176年9月28日出家。

妻は、美福門院加賀。

 

六条天皇:1164年11月14日〜1176年7月17日没(享年13)。

在位:1165年6月25日〜1168年2月19日。

歴代最年少(満7ヶ月11日)の天皇。

在位2年8か月で祖父、後白河上皇の意向により、

叔父の高倉天皇に譲位。

これは、歴代最年少の太上天皇。

その後、元服を行うことなく、赤痢のため、13歳で崩御。

後白河院→甥(二条天皇)→叔父(高倉天皇)への皇位継承は

不自然なものだった。

 

いねつきのうた:神前に供える新穀を臼でつきながらうたう歌。

 

あふみ:湖。

あふみ:近江。

あぶみ:馬具の一種。鞍の両脇に下げて、乗り手が足を踏み掛けるもの。

 

あふ:耐える。持ち堪える。差し支えない。大目に見る。完全に〜しとげる。終わりまで〜しおおせる。どうしても〜することができない。

あふ:出会う。対面する。来合わせる。うまく出くわす。あたる。適合する。男女が関係を結ぶ。ちぎる。結婚する。相手になる。立ち向かう。対抗して争う。

あふ:ひとつになる。一緒になる。一致する。調和する。釣り合う。似合う。一緒に〜する。互いに〜しあう。

あぶ:(水、湯、光などを)浴びる。

 

み:美しい。立派な。

み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。

 

みの:雨具。蓑。

 

さかた:近江国の坂田。

 

さかす:関心をもつ。興味を起こさせる。もてはやす。ひけらかす。

 

さかし:賢い。優れている。判断力がある。しっかりしている。気丈である。気が利いている。上手だ。利口ぶっている。こざかしい。生意気だ。

 

さがし:険しい。危険だ。

 

かたし:難しい。なかなかできない。めったにない。

 

いぬ:どこかへ行ってしまう。立ち去る。去る。居なくなる。時が過ぎる。時がうつる。経過する。世をさる。死ぬ。亡くなる。

いぬ:寝る。眠る。

 

かく:馬に乗って走る。

かく:破損する。傷つく。不足する。抜かす。もらす。おろそかにする。

かく:肩にのせて運ぶ。かつぐ。

かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。

かく:吊り下げる。ひっかける。関係する。二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。覆う。かぶせる。水などを浴びせかける。兼任する。対比する。話しかける。情愛をそそぐ。思いをかける。火をつける。捕える。だます。ある期間にわたる。大切なものを託す。目標にする。関係づける。

かく:こする。ひっかく。つまびく。髪をとかす。刃物で切り取る。引っ掻くようにつかまる。とりすがる。食べ物をかきこむ。

 

つむ:出仕する。満たす。ふさぐ。迫る。追い込む。縮める。

つむ:積もる。たまる。載せる。かじる

つむ:指先でつまむ。つねる。植物を摘みとる。集める。ためる。

 

みち:通路。途中。道理。すじみち。道徳。教義。方法。ある方面。

みち:満ちること。

みつ:充満する。満ちる。満月、満潮になる。叶う。知れ渡る。

みち:未知。

 

み:美しい。立派な。

み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。

みよ:見よ

みよ:御代

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

はじめ:物事の起こり。最初。はじまり。以前。前。先。順序の一番目。第一。主要なもの。事の次第。いきさつ。一部始終。はじめに。以前に。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

長秋詠藻

 

家集に初句「近江路や」、第三句「刈り積みて」。