《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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長和(ちやうわ)五年、

大嘗会(だいじやうゑ)悠紀方(ゆきがたの)風俗歌(ふぞくうた)、

近江国(あふみのくに)朝日郷(あさひのさと)

祭主(さいしゆ)輔親(すけちか)

あかねさす朝日の郷の日影草(ひかげぐさ)豊明(とよのあかり)のかざしなるべし

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

長和五年、大嘗会悠紀方の風俗歌、「近江国朝日の郷」

祭主輔親

朝日の郷の日影草よ。

豊明りの節会の挿頭(かざし)となることであろう。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;長和5年(1016年)11月5日、

後一条天皇の大嘗会(天皇即位後、初めて行われる新嘗祭)にて

東方の祭場「悠紀」の風俗歌で

「近江国朝日郷」を詠み、風俗舞を披露しました。

 

作者;大中臣輔親

 

 

「朝日の郷」とは

 

「茜色に美しく映え輝く

朝日が差し込む郷(さと)」

 

という意味です。

 

後一条天皇の御代は

豊明のかざしのように

 

日光が当たらず、

恵まれない環境にいる草(=人々)にも

 

明るい光を届けるに違いないよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

大中臣輔親:954年〜1038年6月2日(享年85)。

中古三十六歌仙のひとり。

一条天皇、三条天皇後一条天皇、後朱雀天皇に仕えた。

 

後一条天皇:1008年9月11日〜1036年4月17日(享年29)。

在位:1016年1月29日〜1036年4月17日。

一条天皇の第二皇子。

母は、藤原彰子(藤原道長の娘)。

糖尿病により、29歳で崩御。

 

風俗舞は、悠紀、主基ともに、

それぞれの国の風俗の歌をうたって舞う舞。

 

近江国朝日郷:滋賀県。「朝日郷」は、浅井郡にあった郷。郡上(ぐじょう)の地かという。

 

 

あかね:植物の名。根から赤色の染料をつくる。また、その染め色。

あかねさす:茜色に美しく映え輝く意の枕詞。

あか:まったくの〜。はっきりした〜。

あが:私が。私の。

あかねさす:たくらみが明らかになる

あかす+ね:明らか+泣き声

か:香り。におい。

かぬ:兼ね備える。兼ねる。予想する。一定の範囲にわたる。

かね:金属。金銭。釣り鐘。

ね:声。鳴き声。音。根。根本。物事の根源。山の頂上。みね。

ね:「寝(ぬ)」の已然形。男女が共寝する。

さす:光が直射する。さしこむ。草木が芽をだす。潮が満ちてくる。雲がわく。指し示す。目指す。定める。指名する。傘をかざす。設置する。前方に伸ばす。

さす:突き刺す。

さす:注ぎ込む。日を灯す。色をつける。塗りつける。

さす:さしはさむ。さしいれる。(髪に櫛を)さす。

 

あさひ:朝日

あさし:浅い。薄い。時間がたっていない。考えが足りない。少ない。平凡だ。淡い。

 

ひ;日。火。緋色。非。

 

さと:人里。集落。いなか。自宅。生家。実家。養家。俗世間。

さと:さっと。ぱっと。

 

ひかげ:日光の当たらないところ。世に埋もれていること。恵まれない環境。

ひかげ:日の光。日差し。太陽。

 

ひかげのかずら:シダ植物の一種。山地に生え、葉は杉の葉に似て密生し、茎は細長くて地を這うように伸びる。神事に用いられた。

 

ひかげぐさ:ひかげのかずら。常緑のシダ植物。新嘗祭・大嘗会などの神事に、冠の両端に飾りとした。

 

くさ:草。

くさ:原因。たね。対象。種類。

くさし:臭い。怪しい。うさんくさい。

 

とよのあかりのせちゑ:豊明りの節会。新嘗祭・大嘗会の翌日に行われる宴。天皇が新穀を食べ臣下にも賜る儀式及び酒宴。五節の舞が演じられる。

 

とよのあかり:酒を飲んで顔が赤くなること。宴会。宮中での酒宴。饗宴。

 

かざす:花などを髪や冠にさす。飾り付ける。

かざし:生命力を取り込むための呪詛。血縁。先祖。

 

なり:〜の音(声)が聞こえる。〜ようだ。〜らしい。〜とかいう。〜そうだ。〜ようだ。

なり:職業。

なり:かたち。形状。格好。身なり。服装。様子。ありさま。

 

なる:生まれ出る。生じる。実がなる。実る。

なる:成立する。成就する。変わる。変化する。落ちぶれる。時や場所に達する。おいでになる。おでましになる。

なる:よれよれになる。着古す。使い古す。くたびれる。

なる:営む。

なる:慣れる。慣れ親しむ。うちとける。なじむ。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。