《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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日吉禰宜成仲(ひよしのねぎなりなか)、

七十賀(しちじふのが)し侍りにけるに、遣はしける

清輔朝臣

七十(ななそぢ)にみつの浜松老(お)いぬれど千代(ちよ)の残りはなほぞはるけき

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

日吉の禰宜成仲が、七十の賀をしました時に、

贈ってやりました歌

清輔朝臣

七十歳に満ちた御津(みつ)の浜の松は老いてしまったけれど、

樹齢の千歳の残りは、まだ遥かなことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;日吉の禰宜の成仲が

七十歳の祝いの賀をなさいましたので

歌を詠んで贈りました。

 

作者;藤原清輔

 

 

七十歳になられたこと、

誠にめでたいことと

お祝い申し上げます。

 

日吉神社前の御津の浜松は

年を重ねて

老いてしまっているけれど、

 

永久の年月は

まだまだ、はるかにたくさん残っています。

 

これからも

長生きなさってくださいね。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原清輔:1104年〜1177年6月20日(享年74)。

崇徳天皇、近衛天皇、後白河天皇、

二条天皇、六条天皇、高倉天皇に仕えた。

 

日吉禰宜成仲:祝部(はふりべの)成仲:1099年〜1191年10月13日(享年93)。

滋賀県大津市坂本、琵琶湖畔にある日吉(ひえ)神社の神官。

「禰宜」は神主の下、祝(はふり)の上に位する神官。

40歳頃から歌壇活動を始めた。

永万2年の藤原重家家歌合などに参加。

 

みつの浜松:御津の浜の松。「みつ」に「満つ」と「御津」をかけた。「御津の浜」は、日吉神社前の琵琶湖畔一帯。

 

ななそぢ:七十。七十年。七十歳。

 

みつ:三。みっつ。

みつ:いっぱいになる。充満する。満ちる。満月になる。満潮になる。願望が叶う。充足する。世の中に知れ渡る。いっぱいにする。充満させる。

 

みず:水。

みづ:みずみずしく生き生きとしていて美しく意。めでたいしるし。瑞兆。

 

はままつ:浜辺に生えている松。

はまる:おちいる。落ち込む。計略にかかる。だまされる。

まつ:待つ

松の位:大夫の異名。

 

おい:老いること。年をとること。老年。老人。

 

をふ:麻の生えているところ。麻原。

をふ:終わらせる。終える。し尽くす。

 

ぬる:濡れる。寝る。

 

ぬ:(完了)〜た。〜てしまった。(強意)きっと〜。〜てしまう。(並列)〜たり、〜たり。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

ちよ:千年。極めて長い年月。永久。

ちよ:千の夜。多くの夜。

 

のこり:後にとどまる。残る。生き残る。死に遅れる。

 

なほ:まっすぐなこと。いつわりのないこと。ふつうに。平凡に。何もしないで。そのまま。

なほ:もとのまま。依然として。なんといってもやはり。さらに。ますます。いっそう。同様に。やはり同じように。それでもやはり。そうはいっても。〜でさえやはり。むしろ。やはりまた。再び。ちょうど。まるで。

 

はるけし:非常に遠い。時間的に大きく隔たっている。心が遠く離れている。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

清輔集