《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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八月(はづき)十五夜、和歌所歌合に、

月多秋友(つきはたしうのとも)といふことをよみ侍りし

寂蓮法師

高砂(たかさご)の松も昔になりぬべしなほゆく末(すゑ)は秋の夜(よ)の月

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

八月十五夜、和歌所の歌合に、

「月は多秋の友」という趣を詠みました歌

寂蓮法師

高砂の松でも、いつかは年齢が尽きて、

昔のものとなるにちがいない。

やはり、行く末の友は、

秋の夜の月であることだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1201年8月15日の夜、

後鳥羽院が主催された和歌所の歌合にて

「月は多秋の友」という題で歌を詠みました。

 

作者;寂蓮法師

 

 

大きくて立派な高砂の松も

いずれは

過去のものとなるように、

 

高貴な人も

いずれは故人となっていきます。

 

それでもやはり

子孫たちは

 

秋の夜の月のように

昔と変わらず輝き続けるでしょう。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

寂蓮法師:1139(?)〜1202年7月20日(享年64?)

俗名は藤原定長。

1150年、叔父、藤原俊成の養子になる。

30代で出家。

1201年、『新古今和歌集』の撰者となるが、

翌年、完成を見ずに没した。

 

 

たか:大きい。立派な。高い。

たか:禄高。収入額。最後にいきつくところ。とどのつまり。挙げ句の果て。

たが:誰が。誰の。

 

たかさご:高砂市。港町。高砂神社、高砂の松で有名。

たかさごのまつ:黒松と赤松の幹が合わさっている。

 

たかし:高い。高貴だ。優れている。自尊心がある。気位が高い。広く知られている。評判が高い。時間的に遠い。年月がたっている。老いている。

 

むかし:過去。以前。故人。前世。

むがし:喜ばしい。うれしい。ありがたい。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。

 

なほ:まっすぐなこと。いつわりのないこと。ふつうに。平凡に。何もしないで。そのまま。

なほ:もとのまま。依然として。なんといってもやはり。さらに。ますます。いっそう。同様に。やはり同じように。それでもやはり。そうはいっても。〜でさえやはり。むしろ。やはりまた。再び。ちょうど。まるで。

 

ゆくすゑ:進んでいく先、方向。これから先。将来。前途。余命。

 

ゆく:赴く。出かける。その場所を離れる。立ち去る。通り過ぎる。通過する。雲や水が流れる。流れ去る。年月が過ぎる。経過する。死ぬ。亡くなる。逝去する。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

すゑ:末端。端。枝先。こずえ。道の終わり。山の奥。野の果て。将来。未来。子孫。跡継ぎ。晩年。盛りを過ぎた時期。衰退期。終わりごろ。末期。結果。挙句。結末。末席。下座。下位。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

つき:月。月の光。一か月。

つぎ:後に続く事。次位。劣る事。控えの間。跡継ぎ。世継ぎ。

つく:終わる。果てる。尽きる。なくなる。消え失せる。きわまる。

つく:呼吸する。息を吐く。食べ物をはく。うそをつく。

つく:突く。打ち鳴らす。手で支える。ぬかづく。

つく:築く。

つく:付着させる。体を寄せる。備わる。感情が生まれる。起こす。気にいる。取り憑く。後に従う。味方する。寄り添う。はっきりする。届く。就任する。関して。ちなんで。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

建仁元撰歌合