《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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千五百番歌合に

摂政太政大臣

濡(ぬ)れて干(ほ)す玉串(たまぐし)の葉の露霜(つゆじも)に天照(あまて)る光幾世(いくよ)経(へ)ぬらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

千五百番歌合に

摂政太政大臣

濡れては干す神のみ前の榊の葉の露や霜に、

天に照る日の光は、

幾世を経て来ているのであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1201年から翌年にかけて後鳥羽院が主催した

「千五百番歌合」にて詠んだ歌

 

作者;藤原良経

 

 

神前に供える玉串は

宝石のように美しい

霊妙な榊です。

 

その玉串の葉が

秋の露霜に濡れますが、

天照大神(=太陽)の光が乾かしてくれます。

 

同じように、

(私たちの周囲に起こる出来事によって)

涙に濡れることがございます。

 

神前に供えた玉串に

涙が霜のように付いて

濡れています。

 

その涙を

乾かしてくれるのは

天皇の威光です。

 

大空に光り輝く

天照大神(=天皇)の威光は

 

何代もの治世にわたって

輝き続けるでしょう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原(九条)良経:1169年〜1206年3月7日(享年38)。

高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。

1189年7月から権大納言。

1195年11月から内大臣。

1204年、太政大臣。

1206年3月、深夜に頓死。

 

ぬる:水などで濡れる。

ぬる:動詞「寝(ぬ)」の連体形。

ぬる:完了の助動詞「ぬ」の連体形。

 

て-:手。手でする行為。手で扱うもの。手で作ったもの。

-て:矢二本を一組として数える語。碁や将棋などで、着手の回数を数える語。方面、方向、場所などを表す。

て:手。手首から先の部分。手のひら。手の指。器具の取手。柄。技術。技。書風。筆跡。楽器の奏法。曲。舞などの芸の型。手振り。所作。芸風。やり方。方法。手段。手立て。腕前。技量。手数。世話。交際。関係。負傷。手傷。痛手。部下。配下。手下。軍勢。方角。方面。

 

ほす:濡れたものを乾かす。涙をかわかす。泣くのをやめる。

 

たまぐし:榊の枝に木綿(ゆふ)をつけて、神前に供えるもの。

 

たま:宝石。真珠。美しいものの例え。涙、露などの例え。

たま:魂。霊魂。

 

くし:くすし:神秘的だ。霊妙だ。不思議だ。生真面目で親しみにくい。とっつきにくい。現実離れして不思議だ。

 

は:羽。羽毛。翼。矢羽。

は:はし。へり。ふち。

 

つゆじも:晩秋の、なかば霜の状態に変わる頃の露。水霜。

 

つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。

 

しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。

しも:霜。白髪のたとえ。

しも:〜なさる。

しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。

しも:死も。

 

あまてる:天空に照る。大空に光輝く。

 

あま:天。空。

あま:尼僧。

あま:漁師。海人。海女。

 

てる:太陽や月が輝く。照る。美しく輝く。照映える。

 

ひかり:光。輝き。輝くばかりの美しさ。容姿の美しさ。光栄。ほまれ。勢い。威光。威勢。

 

ひ:太陽。日中。一日。〜の期日。天候。天照大神。天皇。

ひ:炎。あかり。炭火。火事。のろし。

ひ:氷。ひょう。

ひ:不正。具合の悪いこと。価値のないこと。

ひ:濃く明るい朱色。ひのき。

 

かり:一時的なこと。間に合わせであること。かりそめ。

かり:雁。霊魂を運ぶ鳥とされる。

かり:狩り。鷹狩り。桜狩りやもみじ狩り。

 

かる:枯れる。干からびる。干上がる。涸れる。

かる:離れる。遠ざかる。間をあける。隔たる。足が遠くなる。疎遠になる。よそよそしくなる。

かる:草などを切り取る。

かる:借りる。

かる:追い払う。追い立てる。馬などを走らせる。

 

いくよ:どれほど多くの夜。いく晩。

いく:生きる。生存する。生きながらえる。助かる。花を生ける。

いく:行く。移動する。赴く。立ち去る。通り過ぎる。

ゆく:流れ去る。経過する。死ぬ。亡くなる。気が晴れる。心が晴れる。満足する。〜続ける。ずっと〜する。しだいに〜していく。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

ふ:時間が過ぎる。月日がたつ。通る。通っていく。経験する。段階をふむ。

 

らん:今頃は〜ているだろう。〜だろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。〜ているだろう。〜ているような。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

千五百番