《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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同じ御時、南殿(なでん)の花の盛りに、

歌よめと仰せられければ

参河内侍(みかはのないし)

身にかへて花も惜しまじ君が代に見るべき春の限りなければ

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

同じ御代、南殿の花の盛りに、

「歌を詠め」とお命じになったので

参河内侍

わたしの身に代えて

花の散るのを惜しむということまではしないでおこう。

君の御代のうちに見ることができるはずの花咲く春が、

限りなくあるのだから。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;二条天皇の御代、

南殿(大内裏の正殿・紫宸殿)の

左近の桜が花の盛りとなりました。

その時に「歌を詠みなさい」と

二条天皇がお命じになられたので、詠んだ歌。

 

作者;参河内侍

 

 

紫宸殿(ししんでん)の

左近の桜の花が

美しく咲き誇っております。

 

桜というは、

その身にかえても

花を咲かせることを物惜しみすることが

ありません。

 

美しく栄えた愛らしい姿を

惜しげもなく

見せてくれるものです。

 

二条天皇の御代は

美しい桜が咲く春のように

晴々しい治世です。

 

桜のように

際限なく

強く盛んに芽吹き、

晴々しい御代でいらっしゃいますことよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

参河内侍:二条院参河内侍:生没年不詳。

二条院に典侍として出仕。

後に、藤原琮子(後白河院女御)の女房。

 

二条天皇:1143年6月18日〜1165年7月28日(享年23)。

在位:1158年8月11日〜1165年6月25日。

後白河天皇の第一皇子。

母は、源懿子(いし・よしこ)

 

み:美しい。立派な。

み:からだ。身分。身の上。自分自身。命。本体。中身。

 

かふ:交わす。交差させる。

かふ:取り替える。交換する。引き換える。

 

はな:花。薄い藍色。華やかないこと。栄えていること。うつろいやすいこと。上辺だけの美しさ。芸の華やかさ。祝儀。

はな:先端。末端。はし。

はな:鼻。鼻水。風邪。

はなつ:身から離す。手放す。自由にする。逃がす。あける。開く。発する。矢をいる。火をつける。除外する。追放する。流罪にする。

 

をし:おしどり。水鳥。つがいで仲良く水に浮く姿を、夫婦仲の良いのに例える。

をし:夫婦仲が良いこと。

をし:いとおしい。愛らしい。かわいい。惜しい。捨てがたい。名残惜しい。

をし:貴人が通るとき、人々をしずめる声。

 

をしむ:深く愛する。慈しむ。大切にする。惜しく感じる。物惜しみする。心残りに思う。残念に思う。

 

きみ:君主。天皇。主人。お方

きみ:香りと味。風味。趣。気持ち。気分。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。

 

みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。

 

はる:春。新年。正月。

はる:一面に広がる。芽が出る。芽吹く。強く盛んになる。張り合う。緊張する。たるまないように引っ張る。広げる。貼り付ける。設ける。仕掛ける。たたく。打つ。

はる:晴天になる。心が晴れる。心がすっきりする。晴れ晴れする。ひらけている。見晴らしがいい。広々としている。

はる:開墾する。

はるか:遥かに遠い。遥だ。

はる:春宮

 

かぎり:限度。限界。極限。最大限。最高潮。期間。うち。範囲内。最期のとき。命の果て。臨終。葬送。全て。あるだけ全部。機会。時期。折。規則。決まり。おきて。〜だけ。〜ばかり。

 

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

南殿:紫宸殿。大内裏の正殿。

前庭に通じる階段の、左に左近の桜。

右に右近の橘が植えられている。

この歌の桜は、左近の桜。