《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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永保(えいほう)四年、内裏子日(うちのねのひ)に

権中納言通俊(みちとし)

子(ね)の日する野べの小松を移し植ゑて年(とし)の緒(を)長く君ぞ引くべき

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

永保四年、内裏の子の日に

権中納言通俊

子の日をする野辺の小松を、

宮中のお庭に移し植えて、

年久しく、わが君はお引きになることであろう。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;白河天皇の御代、

永保4(1084)年、

内裏の子の日(正月最初の子の日の宮中行事)にて

詠みました歌

 

作者;藤原通俊

 

 

皇居では

新年、初めての子の日に

長寿を願って

小松を引き抜く行事が行われます。

 

子の日の行事をするために

野の小松を

皇居内に移し植えました。

 

子の日の行事は

これまでもそうしてきたように

 

これからも

長い年月にわたって

 

天皇が

小松を引き抜いて

長寿を願い続けていくだろう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原通俊:1047年〜1099年8月16日(享年53)。

後冷泉天皇、後三条天皇、白河天皇、堀河天皇に仕えた。

白河天皇の歌壇で活躍した。

 

白河天皇:1053年6月19日〜1129年7月7日(享年77)。

在位:1072年12月8日〜1086年11月26日。

 

ねのひ:十二支の子の日にあたる日。

 

ねのひのまつ:「子の日の遊び」の時に、長寿を願って、根ごと引き抜く小松。

 

はつね:月の最初の子の日。特に、正月の最初の子の日をいう。この日は、宮中では饗宴や行事が行われ、庶民は野に出て小松を引き抜いたり、若菜を摘んで祝った。

 

のべ:野のあたり。野原。

のぶ:長くする。広げる。のばす。延期する。気持ちのびのびさせる。ゆったりさせる。

べ:〜のあたり。

 

こまつ:小さな松。

まつ:松。永久不変。待つ。

 

うつし:露草などの花の汁を紙に染み込ませ、その色を移して布を染めること。またはその紙。薫物の香りを衣服や調度品などに染み込ませること。またその香。

うつし:現に存在している。この世に生きている。真実だ。本気だ。本心だ。気持ちが正常だ。意識がしっかりしている。正気だ。

 

うつす:元の通りに書き写す。模写する。真似て作る。模造する。まねる。模倣する。(水面や鏡などに)物の姿や形を表し出す。反映する。映ずる。

うつす:他に動かす。移動させる。置き換える。身分の高い人を流罪にする。心を他に動かす。心変わりする。色や香りを染み込ませる。もののけを他に乗り移らせる。時を過ごす。経過させる。

 

うう:植える。飢える。

 

としのを:長く続くことを緒にたとえていう語。年月。年。

 

とし:一年。歳月。多年。年齢。季節。時候。穀物。稲。

とし:するどい。鋭利だ。

とし:すばしこい。俊敏だ。感覚がするどい。鋭敏だ。

とし:速い。激しい。時期や時間が早い。

 

を:細長く伸びたもの。

 

ながし:(時間的、空間的に)長い。

 

きみ:君主。天皇。主人。お方

きみ:香りと味。風味。趣。気持ち。気分。

 

ひく:しりぞく。退却する。後ろに下がる。

ひく:引っ張る。引き寄せる。引き抜く。抜き取る。取り去る。取り外す。引いて張り巡らす。弓を引く。引きずる。導く。連れて行く。心をひきつける。誘う。引用する。線をかく。平にならす。贈り物として与える。入浴する。演奏する。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。