《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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寛治(くわんぢ)八年、関白前太政大臣高陽院(かやのゐん)歌合に、祝(いはひ)の心を

康資王母(やすすけわうのはは)

万代(よろづよ)をまつの尾山(をやま)の陰茂(かげしげ)み君をぞ祈るときはかきはに

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

寛治八年、関白前太政大臣の高陽院の歌合に、「祝い」の趣を

康資王母

万代の年を待っている、

松の尾山の木陰がしげく栄えているので、

その松のように、いつまでも不変不動、

み栄えあれと君をお祈り申し上げることだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;堀河天皇の御代、寛治8(1094)年8月、

藤原師実の邸宅、高陽院で催された歌合にて

祝いの気持ちを詠みました。

 

作者;康資王母

 

 

永久不変に

限りなく繁茂する御代であるようにと

願っています。

 

常緑の松が繁茂する山の姿が

天皇の恩恵を物語っているかのように

見えます。

 

堅くてゆるがない大岩のように

いつまでも

天皇の永久不変の繁栄を祈ります。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

康資王母:生没年不詳。

母は、伊勢大輔

後冷泉天皇の皇后四条宮寛子に仕え、

筑前の通称で呼ばれた。

 

堀河天皇:1079年7月9日〜1107年7月19日(享年29)。

在位:1086年11月26日〜1107年7月19日。

生来、病弱で、在位のまま崩御。

白河天皇の第三皇子。

鳥羽天皇の父。

臨終の様子は、

藤原長子の『讃岐典侍日記』に詳しい。

 

藤原師実:1042年〜1101年2月13日(享年60)。

後冷泉天皇、後三条天皇、白河天皇、堀河天皇に仕えた。

藤原賢子は、養女。

 

よろづよ:いつまでも限りなく続く世。永久。

よろづ:多いこと。多数。さまざまなこと。全てのこと。何事にもつけても。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

よ:竹の節。

 

まつ:松。待つ。永久不変。

 

をやまだ:山あいにある田。

を:小さい。少し。わずか。

を:勇ましい。雄々しい。

を:しっぽ。長く伸びたもの。

を:おす。男。夫。

を:山の高いところ。峰。尾根。おか。

を:麻。

を:糸、紐など。弦。命。生命。長く続く物事。

をやむ:少しの間途絶える。ちょっとやむ。

おや:父母。祖先。ものの初め。元祖。人の上に立つ者。中心的人物。

 

やまだ:山を切り拓いて作った田。山あいの田。

やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。

 

をやむ:少しの間途絶える。ちょっとやむ。

 

かげ:人やものの後方。物陰。隠れ場所。人目につかないところ。恩恵。おかげ。庇護。

かげ:光。姿。形。水面や鏡にうつる姿、形。面影。影法師。痩せ衰えた様子。やつれた姿。虚像。幻影。影のように寄り添って離れないもの。死者の霊魂。

 

かけ:結びつけること。口に出して言うこと。

かけ:馬に乗って走らせること。

 

しげし:生い茂っている。密生している。たくさんある。多い。絶え間ない。しきりである。多くてわずらわしい。うるさい。

 

〜み:〜ので。〜から。〜の湾曲したところ。〜のあたり。〜のまわり。

み:身体。身の上。自分自身。命。中身。本体。

み:海。

み:見る

 

きみ:君主。天皇。主人。お方

きみ:香りと味。風味。趣。気持ち。気分。

 

いのる:祈願する。祈祷する。

い〜:清浄な。神聖な。

のる:特別なことを言う。告げる。宣言する。

 

ときは:永久不変。とこしえ。常緑。

とき:時間。時の流れ。時刻。時節。季節。時代。世。治世。場合。とき。折り。栄えているとき。羽振りのよいとき。勢いがあり盛んなこと。時勢。好機。当時。その場。

とき:僧の食事。仏事の食事。法要。法事。

とぎ:話の相手をして退屈慰めること、またその人。寝床の相手をすること、その人。看病すること、その人。

 

かきは:堅磐(かたいは):堅くゆるがぬ大岩。

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

高陽院七番

康資王母集

 

歌合には、作者は紀伊。