《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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文治六年、女御入内屏風に

皇太后宮大夫俊成

仙人(やまびと)の折る袖にほふ菊の露うちはらふにも千代(ちよ)は経(へ)ぬべし

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

文治六年、女御入内屏風に

皇太后宮大夫俊成

仙人が菊の花を手折る袖に

こぼれて匂う菊の露を、

うち払うちょっとの間にも、

千年は過ぎてしまうことであろう。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;1190年正月、藤原兼実の娘(任子)が

後鳥羽天皇の女御として宮中に入ったときの

屏風の絵の和歌。

九月の菊の絵に詠んだもの。

 

作者;藤原俊成

 

 

天皇のいらっしゃる高い所(皇室)で

不老長寿を願う菊の花の露が

良い香りを漂わせています。

 

このたび、

後鳥羽天皇に相応しい

艶やかで美しい女御が入内されました。

 

永久に

穢れを清め、

禍を取り除くにちがいないことですよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

皇太后宮大夫俊成:藤原俊成

生没年:1114年〜1204年11月30日(享年91)

皇太后宮大夫(後白河院の皇后、藤原忻子(きんし・よしこ)に

就任したのは、1172年2月10日〜。

1176年9月28日出家。

妻は、美福門院加賀。

 

後鳥羽天皇:1180年7月14日〜1239年2月22日(享年60)。

在位:1183年8月20日〜1198年1月11日。

高倉天皇の第四皇子。

後白河天皇の孫。

安徳天皇の異母弟。

 

九条任子(たえこ・にんし):1173年9月23日〜1238年12月28日(享年66)。

後鳥羽天皇の中宮。

父は、(摂政関白)九条兼実。

九条良経の妹。

1196年、父(九条兼実)の失脚により内裏を退出。(建久七年の政変)。

父・兼実は、後鳥羽天皇と任子の間に男児(次期天皇)が

生まれることを期待したが、叶わなかった。

 

 

やまびと:山で暮らす人。山で働く人。炭焼きや木こりなど。仙人。山中に住み、不老不死、神変自在の法を治めた人。

やまひ:病気。欠点。短所。難点。心配のたね。気がかり。

 

やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。重要な段階。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

をる:波が折り砕ける。寄せ返す。曲げる。折りとる。折り畳む。折れる。気が挫ける。負ける。

 

おる:高いところからおりる。貴人の前から退く。下がる。退出する。位を退く。

 

そで:袖。

 

にほふ:染まる。美しく染まる。赤く映える。艶やかに美しい。良い香りがする。香気が漂う。恩恵が及ぶ。恩恵で栄える。美しく色付ける。染める

 

おふ:成長する。伸びる。生じる。

生える。

おふ:似つかわしい。ふさわしい。似合う。背負う。身に備える。こうむる。

おふ:追いかける。後を追う。目指していく。追い出す。

 

きく:天皇家の象徴。

きくのしたみづ:中国の南陽・甘谷の、菊をひたした水を飲んだ人々が、みな長寿を保ったという故事による。

きく:うまく働く。役に立つ。上手である。優れている。

きく:聞いて知る。聞いて思う。聞き入れる。尋ねる。問う。味や香りを試す。匂いをかぐ。吟味する。

きく:菊。奈良時代、中国から渡来した。平安時代より秋を代表する花のひとつ。襲の色目。菊の花や葉を用いた文様。

 

つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。

 

うちはらふ:塵などを払いのける。払い清める。追い払う。

 

はらふ:取り除く。はらいのける。掃除する。掃き清める。追い払う。平定する。

はらふ:神に祈って身の穢れを清め、災いを取り除く。お祓いをする。

 

ちよ:千年。極めて長い年月。永久。

ちよ:千の夜。多くの夜。

 

ふ:時間が過ぎる。通過する。経験する。段階を踏む。

 

べし:〜だろう。〜にちがいない。〜そうだ。〜う。〜よう。〜つもりだ。〜はずだ。〜ねばならない。〜ことになっている。〜のがよい。〜せよ。〜ことができる。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

文治六女御入内屏風和歌