《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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題知らず

藤原興風

山川(やまがは)の菊の下水(したみづ)いかなれば流れて人の老(お)いを堰(せ)くらん

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

藤原興風

山川の菊の花の下を流れる水は、

どうして、流れながら、

人の老いを堰き止めているのであろうか。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;題はつけないでおきます。

 

作者;藤原興風

 

 

菊の効き目を聞きました。

 

中国の南陽・甘谷の故事によると、

菊をひたした水を飲んだ人々が、

みな長寿を保ったということです。

 

山や川の下を流れる水は

菊にひたすと

老いを堰き止める効果が

あるらしい。

 

どういうことで

 

年を経ても

人の老いを堰き止められる

というのだろう。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

藤原興風:生没年不詳。

醍醐天皇に仕えた。

三十六歌仙のひとり。

 

やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。憧れたり仰ぎ見たりするもの。物事の絶頂。重要な段階。

 

かは:川。川のように大量の涙。

かはす:互いに交える。交差させる。互いにやりとりする。通わせる。変える。移す。

 

かはる:異なる。変わる。月や年が改まる。普通と違う。異なっている。他と交代する。

 

きく:天皇家の象徴。

きくのしたみづ:中国の南陽・甘谷の、菊をひたした水を飲んだ人々が、みな長寿を保ったという故事による。

きく:うまく働く。役に立つ。上手である。優れている。

きく:聞いて知る。聞いて思う。聞き入れる。尋ねる。問う。味や香りを試す。匂いをかぐ。吟味する。

きく:菊。奈良時代、中国から渡来した。平安時代より秋を代表する花のひとつ。襲の色目。菊の花や葉を用いた文様。

 

したみづ:物の下を流れる水

したみ:升から滴って溜まった酒

した:下部。支配下。庇護。年齢や身分が低いこと。内部。裏側。内心。心の中。

たみ:人民。庶民

たむ:回る。めぐる。ためる。とどめる

みづ:水。みずみずしく生き生きとして美しい様子。めでたい印

みつ:いっぱいになる。充満する。満月、満潮になる。願望が叶う。世の中に知れ渡る。

みち:道。途中。途上。道理。筋道。道徳。教義。方法。方法。方面。専門分野。はちみつ。満ちること。

 

いかなる:どのような。どういう。

 

ながる:流れる。漂っていく。流れていく。涙が流れ落ちる。雨が降る。時が過ぎる。伝わっていく。流布する。めぐる。生きながらえる。流罪になる。左遷される。

 

ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。

 

おい:老いること。年をとること。老年。老人。

 

をふ:麻の生えているところ。麻原。

をふ:終わらせる。終える。し尽くす。

 

せき:物事をさえぎり止めること、もの。隔て。関所。

せく:咳をする。塞きとめる。じゃまする。制止する。妨げる。

 

らむ:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『興風集』には「老いは」。