《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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題知らず

凡河内躬恒

千年(ちとせ)経(ふ)る尾(を)の上(へ)の松は秋風の声こそ変れ色は変らず

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

題知らず

凡河内躬恒

千年を生き長らえている峰の松は、

それを鳴らす秋風の音が夏とは変っても、

色は変わらないことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;「秋」題で歌を詠みました。

 

作者;凡河内躬恒

 

 

長い年月が経過して

古くなった

山の高いところに生えている松は

 

常緑で

永久不変に色が変わることがありません。

 

その松と同じように

天皇家は永久不変に栄えます。

 

季節の変化によって

秋風の吹く音が変わっても

ずっと常緑で栄え続けますよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

凡河内躬恒:859?~925年?(享年67?)。

宇多朝、醍醐朝に仕えた人物。

三十六歌仙。

 

ちとせ:長い年月。

 

ふ:時間が過ぎる。通過する。経験する。段階を踏む。

ふる:古くなる。年をとり老いる。昔馴染みである。

ふる:降る。涙が流れ落ちる。

ふる:さわる。触れる。男女が慣れ親しむ。関係する。少し食べる。

ふる:震動する。

ふる:振り動かす。顔を背ける。相手にしない。

ふる:経る。

 

をのへ:山の高いところ。

 

まつ:松。永久不変。待つ。

 

あき:7月から9月

あく:閉じていたものが開く。あく。隙間ができる。空間が生じる。時間的に空きができる。官職に欠員が生じる。物忌みなどが終わる、あける。

あく:十分に満足する。飽きる。いやになる。

 

かぜ:風。風習。習わし。伝統。風邪。

 

こゆ:肉付きがよくなる。太る。

こゆ:山や谷を越える。年や月が変わる。上回る。まさる。追い越す。

 

こゑ:声。鳴き声。音。音楽。

 

かはる:異なる。変わる。月や年が改まる。普通と違う。異なっている。他と交代する。

 

いろ:色合い。禁色。喪服。顔色。表情。美しい容姿。華やかな色艶。気配。様子。やさしさ。思いやり。恋愛。女性。恋人。

いろ:天皇が父母の喪の初めの十三日間こもる仮宿。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『躬恒集』に題「秋」。結句「色は変らじ」。