《新古今和歌集・巻第七・賀歌》

 

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亭子院六十御賀屏風(ていじのゐんのむそぢのおほんがのびやうぶ)に、

若菜(わかな)摘める所をよみ侍りける

紀貫之

若菜生(お)ふる野べといふ野べを君がため万代(よろづよ)しめて摘まんとぞ思ふ

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

亭子院の六十の御賀の屏風に、

若菜を摘んでいる所を詠みました歌

紀貫之

若菜の生えている野辺という野辺を、

皆、君のために、

いつまでも占めて摘もうと思うことだ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;926年9月24日に、京極御息所が主催した

宇多法皇六十歳の祝いで、

屏風に若菜を摘んでいる絵が描かれていたのを

歌に詠みました。

 

作者;紀貫之

 

 

吸い物にして

宇多法皇に差し上げるために

 

正月の最初の子の日に

野に出て新菜を摘みましょう。

 

初子の日に

野辺という野辺に生えている

若菜を摘んで

天皇に献上することは

昔からずっと続いてきた伝統です。

 

今年は

宇多法皇のために、

 

そして

この先も永久不変に繁栄する

天皇家のために

 

お仕えするしている私たちは

この先も永久に

初子の日には若菜を摘み取り、

 

献上する所存でございます。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

紀貫之:866または872年?〜945年5月18日(享年74または80)。

醍醐天皇、朱雀天皇に仕えた。

905年4月、『古今和歌集』を撰上。

907年9月、宇多天皇の大井川行幸にて歌や序を供奉。

930年1月〜935年2月、土佐守。

930年1月、醍醐天皇の勅令により『新撰和歌集』を編纂。

 

宇多天皇:867年5月5日〜931年7月19日(享年65)。

在位:887年8月26日〜897年7月3日。

899年10月24日:出家。仁和寺に入り、法皇となった。

 

わかな:早春に芽生えたばかりの芹、なずななどの野草を摘んで食し、

その生命力にあやかって邪気を払い健康を願った風習。

 

わか:幼児

わかな:春のはじめに摘んで食べる菜。正月の最初の子の日に吸い物に入れて食べる新菜。万病を除くとされ、宮中では、正月初子の日に、七種の若菜の吸い物を天皇に差し上げる習慣があった。

わかなつみ:正月の最初の子の日に野に出て新菜を摘む行事。

 

おふ:成長する。伸びる。生じる。生える。

おふ:似つかわしい。ふさわしい。似合う。背負う。身に備える。こうむる。

おふ:追いかける。後を追う。目指していく。追い出す。

 

ふる:泣く。降る。古くなる。振る。震る。

 

のべ:野のあたり。野原。

のぶ:長くする。広げる。のばす。延期する。気持ちのびのびさせる。ゆったりさせる。

べ:〜のあたり。

 

きみ:君主。天皇。主人。お方

きみ:香りと味。風味。趣。気持ち。気分。

 

よろづよ:いつまでも限りなく続く世。永久。

よろづ:多いこと。多数。さまざまなこと。全てのこと。何事にもつけても。

 

よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。

よ:余り。以上。ほか。

よ:私。

よ:夜。

 

しめ:土地の占有や区切りを示し、立ち入りを禁じるための標識。木を建てたり、縄を張り巡らしたりする。また、山道などの道しるべ。

しめなは:神事の場や家の内に災いが入るのを避ける、しめ縄。

 

しめる:水に濡れる。湿気をおびる。雨がしずまる。おさまる。火の勢いが衰える。火が消える。もの思いに沈む。しんみりする。物静かである。落ち着きがある。

しむ:染み込む。染まる。深く感じる。心に染みる。熱心になる。関心をもつ。

しむ:自分のものだという印をつける。占領する。性格、雰囲気などを身に備える。

しむ:固く結ぶ。締める。合計する。話をまとめる。とり決める。こらしめる。手打ちの式をする。

 

つむ:出仕する。満たす。ふさぐ。迫る。追い込む。縮める。

つむ:積もる。たまる。載せる。かじる

つむ:指先でつまむ。つねる。植物を摘みとる。集める。ためる。

 

む:〜だろう。〜よう。〜がよい。〜ませんか。〜ような。〜としたら。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

貫之集

『古今六帖』に、第二句「野べてふ野べを」。