《新古今和歌集・巻第七・賀歌》
708
題知らず
読人しらず
初春(はつはる)の初子(はつね)の今日(けふ)の玉箒(たまははき)手に取るからにゆらぐ玉の緒(を)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
題知らず
読人しらず
初春の初子の今日の玉箒よ。
手に取るだけで、すぐに揺れて、
命伸びるような清らかな音をたてる
玉の緒であることだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;758年正月3日、
孝謙天皇が諸臣に玉箒を下賜して宴を催した時の作。
作者;大伴家持
今日は、
年が明けて初めの「子(ね)の日」、
1月3日です。
新しい芽が盛んに力強く伸び、
心も晴れ晴れとする今日のこの日に
孝謙天皇から
玉箒(寿命を清める働きを持つ玉が飾られている)を
いただきました。
両手で握るとすぐに
玉が揺れて、
命が生きながらえることを暗示させる
美しい玉の音が
鳴り響きましたよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
大伴家持:718年頃〜785年8月28日(享年68)。
父は、大伴旅人
三十六歌仙のひとり。
783年(66歳)に中納言。(桓武天皇の御代)。
孝謙天皇:718年〜770年8月4日(享年53)。
在位:749年7月2日〜758年8月1日。
称徳天皇としての在位は、764年10月9日〜770年8月4日。
父は、聖武天皇。
母は、光明皇后(光明子)。
史上6人目の女性天皇。
はつはる:春の初め。新春。
はつ:はじめての
はつ:終わる。尽きる。死ぬ。亡くなる。すっかり〜する。
はつ:停泊する。
はづ:恥ずかしく思う。面目ない。遠慮する。気兼ねする。ひけをとる。
はる:春。新年。正月。
はる:一面に広がる。芽が出る。芽吹く。強く盛んになる。張り合う。緊張する。たるまないように引っ張る。広げる。貼り付ける。設ける。仕掛ける。たたく。打つ。
はる:晴天になる。心が晴れる。心がすっきりする。晴れ晴れする。ひらけている。見晴らしがいい。広々としている。
はる:開墾する。
はるか:遥かに遠い。遥だ。
はる:春宮
はつね:月の最初の子の日。特に、正月の最初の子の日をいう。この日は、宮中では饗宴や行事が行われ、庶民は野に出て小松を引き抜いたり、若菜を摘んで祝った。
はつね:鳥がその年に初めて鳴く声。特に、うぐいすやほととぎすの鳴き声について言う。
けふ:今日。
げふ:仕事。職業。
たまははき:正月初子の日、蚕室を掃くために用いた箒。
寿命を表す玉を飾り、寿命を清めるはたらきを持っていた。
たま:美しい。優れているの意。
たま:美しい石。宝石。真珠。美しいもののたとえ。涙、露など小さくて丸く美しいもののたとえ。
たま:たましい。霊魂。精霊。
ははき:ほうき。
はばき:すねあて。
たまはる:いただく。頂戴する。お与えになる。くださる。〜ていただく。〜てくださる。
て:手。手首。手のひら。指。取手。技術。筆跡。手法。腕前。世話。交際。痛手。部下。方面。
とる:照る。
とる:つかむ。しっかりと握る。捕らえる。採取する。収穫する。操作する。奪う。盗む。自分のものにする。支配する。選ぶ。採用する。調子を合わせる。うかがう。推量する。
から:ため。ゆえ。
から:中国、朝鮮半島。
から:外殻。抜け殻。死体。亡骸。
からに:〜ので。〜から。〜によって。〜ばかりに。いくら〜でも。たとえ〜といっても。〜やいなや。〜とすぐに。
ゆらく:玉や鈴などが揺れて、触れ合って音をたてる。
たまのを:玉を貫いてつなぐためのひも。短いことの例え。ほんの少しの間。暫く。命、生命。
たま:宝石。真珠。美しいものの例え。涙、露などの例え。
たま:魂。霊魂。涙
を:細長く伸びたもの。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
758年正月3日、
孝謙天皇が諸臣に玉箒を下賜して宴を催した時の作。
作者は大伴家持。
万葉二十
六帖