《新古今和歌集・巻第六・冬歌》

 

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入道前関白太政大臣、百首歌よませ侍りける時、

年の暮(くれ)の心をよみて遣はしける

後徳大寺左大臣

石(いし)ばしる初瀬(はつせ)の川の波枕(なみまくら)はやくも年の暮れにけるかな

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

入道前関白太政大臣が百首の歌を詠ませました時、

「年の暮」の趣を詠んで贈った歌

後徳大寺左大臣

瀬々の石の上を激しく走り流れる

初瀬川の波の音を、

枕もとに聞きながら寝ている感じで、

早くも年が暮れてしまったことよ。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;藤原兼実が、

百首歌を詠ませなさいました時に、

「年の暮」をテーマに歌を詠んで贈りました。

 

作者;藤原実定

 

 

(今年、私は)

 

亡くなった人を想って

長谷寺に参詣し、

 

墓石に駆け寄って

泣きながら

旅寝をして過ごしました。

 

 

亡き人のことを思うと、

激しく流れる初瀬川の水のように

大量の涙が流れます。

 

悲しみに暮れて過ごした一年でした。

 

そうこうしているうちに

 

あっという間に一年が過ぎて

年の暮れになってしまいましたよ。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

徳大寺(藤原)実定:1139年〜1191年閏12月16日(享年53)。

1189年7月から左大臣(後鳥羽朝)

左大臣就任後、病気がちになる。

三男、公継の参議任命を望んでいた。

1191年6月から病のため出家。

1191年7月、公継が参議に任命される。

実定の和歌活動は平家との政治的競合に敗れて

散位に留め置かれ、沈淪を余儀なくされた

1165年〜1177年の頃に集中している。

晩年は作歌にあまり精力的ではなかった。

近衛天皇、後白河天皇、二条天皇、六条天皇、

高倉天皇、安徳天皇、後鳥羽天皇に仕えた。

 

藤原(九条)兼実:1149年〜1207年4月5日(享年59)。

後白河天皇、二条天皇、六条天皇、高倉天皇、

安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。

右大臣だったのは、1166年から1186年。

1189年12月14日、太政大臣。

1191年12月17日から1196年11月25日、関白。

1202年1月28日、出家。

 

 

いはばしる:岩の上を水が勢いよく走る。岩の上を水が激しく流れる。

いはばしる:水が岩石にぶつかって砕け、激しく流れることから「滝」「垂水」「近江」にかかる歌枕。

 

いは:岩石。大きな石。家。

 

いし:岩石。庭石。墓石。

いし:椅子。

いし:よい。優れている。見事だ。上手だ。関心だ。けなげだ。うまい。おいしい。美味だ。

 

はしる:早く移動する。早く行く。駆ける。逃げる。逃げ出す。水などが飛び散る。ほとばしる。勢いよく流れる。胸がドキドキする。わくわくする。高鳴る。胸騒ぎがする。

 

はつせ:奈良県桜井市初瀬町にある長谷寺。平安貴族がしばしば参籠した。

 

はつ:はじめての

はつ:終わる。尽きる。死ぬ。亡くなる。すっかり〜する。

はつ:停泊する。

はづ:恥ずかしく思う。面目ない。遠慮する。気兼ねする。ひけをとる。

 

せ:女性が男性を親しんで呼ぶ語。

せ:浅瀬。早瀬。出会う時。出会う場所。機会。地点。そのようなこと。点。節。

 

かは:川

かは:〜か、いやない。〜か。〜だろうか。

かはす:互いに交える。交差させる。互いにやりとりする。通わせる。変える。移す。

 

なみまくら:波の音を聞きながら寝ること。船中や、海・川などの近くで旅寝をすること。

 

なみま:波と波との間。波が絶えている間。

 

なみ:波。波のような起伏をするもの。しわ。

なみ:並ぶ様子。並び。列。続き。同類。同等。共通する性質。

なみ:無み。〜がないために。

 

まくら:枕。寝ること。頭の方。

まく:枕とする。枕にして寝る。抱いて寝る。結婚する。

まく:絡み付ける。巻きつける。巻き上げる。丸める。

まく:準備する。用意する。時期を待ち受ける。待っていた時期になる。

まく:撒き散らす。植物の種を植える。

まぐ:曲げる。道理や精神を歪曲する。

まぐ:探し求める。

 

くら:人が座る場所。物を置く台。

くらし:暗い。愚かだ。精通していない。真理を悟っていない。不足だ。欠けている。

くらす:心を暗くする。悲しみに暮れさせる。涙で目の前が暗くなる。

くらす:日が暮れるまで過ごす。月日を送る。生活する。日が暮れるまで〜する。

 

はやし:速度がはやい。動きがすばやい。時期や時間が早い。激しい。強い。急だ。香の香りが強い。

 

とし:一年。歳月。多年。年齢。季節。時候。穀物。稲。

とし:するどい。鋭利だ。

とし:すばしこい。俊敏だ。感覚がするどい。鋭敏だ。

とし:速い。激しい。時期や時間が早い。

 

くる:目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れまどう。理性がなくなる。

くる:日が暮れる。終わる。過ぎる。

くる:与える。やる。くれる。

く:来