《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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題知らず
摂政太政大臣
石上(いそのかみ)布留野(ふるの)の小笹(をざさ)霜を経(へ)てひと夜(よ)ばかりに残る年かな
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
題知らず
摂政太政大臣
石上の布留の野の笹が、
幾度もの霜にあって、
一節ばかり残っているころになったが、
今年も、あと一夜ばかり残っている
年であることよ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;「治承題百首」中の作。
「歳暮」のテーマで歌を詠みました。
(「治承認題」は、
1178年、藤原兼実(良経の父)主催の
「右大臣家百首」の題。)
作者;藤原良経
今年も
早くも月日が過ぎて
年の暮れとなりました。
天皇に勤勉に仕えてきた
我が父(兼実)も、
早くも五十代となり
頭髪が霜のように白くなっています。
小笹の節(よ)が
霜のおりる霜月(十一月)を経て、
一節(ひとよ)ばかり残っていますね。
今年も
あと
ひと夜(ひとよ)を残すばかりとなりました。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
作者が太政大臣だったのは
1204年から1206年。
この頃、
父親の兼実は56歳〜58歳になります。
「いそのかみ」の「いそ」に「五十」の意味があり、
「霜」には、「白髪」の意味があります。
今年が暮れていくことと
父親の年齢が年老いていくことを合わせて
言っていると読み取れます。
藤原(九条)良経:1169年〜1206年3月7日(享年38)。
1189年7月から権大納言。
1195年11月から内大臣。
1204年、太政大臣。
1206年3月、深夜に頓死。
藤原(九条)兼実:1149年〜1207年4月5日(享年59)。
後白河天皇、二条天皇、六条天皇、高倉天皇、
安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。
右大臣だったのは、1166年から1186年。
1189年12月14日、太政大臣。
1191年12月17日から1196年11月25日、関白。
1202年1月28日、出家。
い:糸。蜘蛛の糸。着物。衣服。寝ること。睡眠。
いそ:岩石の多い波打ち際。
いそぐ:早くしようとする。準備する。用意する。したくする。
いそし:熱心に勤めている。勤勉である。
いそぢ:五十。五十歳。
いそのかみ:「石上」に「布留」という地名があり、「ふる」にかかる枕詞。
その:庭園。菜園。場所
その:その。前述の。どういう。なんの。
そのかみ:その当時。その時。その頃。昔。過去。
かみ:高いところ。上の方。上流。高位の人。天皇。お上。年上。上座。以前。昔。上旬。
ふるし:遠い昔のこと。長い時間がたっている。長く続いている。年老いている。古くなっている。古びている。珍しくない。
ふる:古くなる。古びる。年をとり老いる。昔馴染みである。古臭くなる。
ふる:降る。涙が流れおちる。
ふる:さわる。ふれる。男女が慣れ親しむ。関係する。出会う。少し食べる。言いふらす。
ふる:震動する。
ふる:降り動かす。頭を動かす。男女関係で相手にしない。
ふる:経る。
を:小さい。少し。わずか。
を:勇ましい。
を:しっぽ。細長く伸びたもの。山裾が長く伸びたところ。
を:動物のおす。男性。夫。
を:嶺。尾根。おか。
を:細長い物。命。生命。長く続く物事。
ささ:細かい。少しの。小さい。
ささ:酒。
ささ:笹。
しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。
しも:霜。白髪のたとえ。涙が凍っている様子。
しも:〜なさる。
しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。
ふ:時間が過ぎる。月日がたつ。場所通る。通っていく。通過する。経験する。段階をふむ。
ふ:縦糸を引き延ばして織り機にかける。
ひと:人間。世間の人。大人。立派な人。人柄。性質。身分。他人。あの人。従者。あなた。
ひとよ:一夜
よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。
よ:余り。以上。ほか。
よ:私。
ばかり:〜くらい。〜ほど。〜ころ。〜だけ。〜ばかり。
のこる:あとにとどまる。残る。生き残る。死に遅れる。
とし:一年。歳月。多年。年齢。季節。時候。穀物。稲。
とし:するどい。鋭利だ。
とし:すばしこい。俊敏だ。感覚がするどい。鋭敏だ。
とし:速い。激しい。時期や時間が早い。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
秋篠月清集
後京極自歌合
家集によると、
「治承題百首」中の作で、題「歳暮」。
「治承題」は、1178年、
藤原兼実主催の「右大臣家百首」の題。