《新古今和歌集・巻第六・冬歌》

 

695

俊成卿家(としなりきやうのいへ)に十首歌よみ侍りけるに、

歳暮(せいぼ)の心を

俊恵(しゆんゑ)法師

嘆きつつ今年も暮れぬ露(つゆ)の命(いのち)生(い)けるばかりを思ひ出(いで)にして

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

俊成卿の家で十首の歌を詠みました時に、

「歳暮」の趣を

俊恵法師

嘆き続けて今年も暮れてしまう、

はかない命が生きているというだけを

思い出として。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;藤原俊成の邸宅で「十首の歌」を詠みました時に、

「歳暮」をテーマに歌を詠みました。

 

作者;俊恵法師

 

 

しきりに

長いため息をついて

 

悲しんで泣きながら

今年も暮れていきました。

 

(早世したあの方は)

露のように

儚く、短い命を生きられた…

 

そんなことばかり

何度も思い出して

 

悲しい気持ちばかりが積もります。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

俊恵法師が生きた時代、

皇室関係で若くして逝去した人物が

下記のとおり多数います。

この歌は、早世した人たちのことを

詠んだもものだと思われます。

 

俊恵法師:1113年〜1191年頃(享年79?)

父は、源俊頼。

40歳以降で、1100首余りの歌を作った。

白川の自坊を「歌林苑」と名づけ、

そこに藤原清輔、源頼政、殷富門院大輔など

多くの歌人を集めて歌会・歌合を開催した。

 

①惇子(あつこ・じゅんし)内親王:1172年5月3日没(享年15)

後白河天皇の第五皇女

 

②休子(きゅうし・やすこ・のぶこ)内親王:1171年3月1日没(享年15)

後白河天皇の第四皇女

 

③ 僐子(ぜんし・よしこ)内親王:1171年3月1日没(享年13)

二条天皇の第一皇女

 

④藤原育子(むねこ・いくし):1173年8月15日没(享年28)

二条天皇の中宮。六条天皇の養母。

 

⑤六条天皇:1176年7月17日没(享年13)。

歴代最年少(満7ヶ月11日)の天皇。

在位2年8か月で祖父、後白河上皇の意向により、

叔父の高倉天皇に譲位。

これは、歴代最年少の太上天皇。

その後、元服を行うことなく、赤痢のため、13歳で崩御。

後白河院→甥(二条天皇)→叔父(高倉天皇)への皇位継承は

不自然なものだった。

 

⑥姝子(しゅし・よしこ)内親王:1176年6月13日没(享年36)

二条天皇の中宮

 

⑦平滋子:1176年7月8日没(享年35)

後白河院の女御・皇太后。高倉天皇の生母。

 

⑧藤原呈子(ていし・しめこ):1176年9月19日(享年46)

近衛天皇の中宮。美福門院の養女。

 

なげく:長い息をする。ため息をつく。悲しむ。悲しんで泣く。嘆願する。愁訴する。こいねがう。

 

つつ:何度も~して。しきりに~して。ずっと~して。~ながら。~ことだよ。

 

ことし:今年。

 

くる:目が眩む。涙で目が見えなくなる。心が乱れまどう。理性がなくなる。

くる:日が暮れる。終わる。過ぎる。

くる:与える。やる。くれる。

く:来

 

つゆ:水滴。露。わずかのこと。少しのこと。儚さ。もろさ。涙。袖括りの紐の先。

 

いのち;生命。寿命。一生。生涯。生命の支え。唯一のよりどころ。

 

いく:生きる。生存する。生きながらえる。助かる。花を生ける。

いく:行く。移動する。赴く。立ち去る。通り過ぎる。

 

ばかり:〜くらい。〜ほど。〜ころ。〜だけ。〜ばかり。

 

おもひいづ:思い出す。思い起こす。

 

おもふ:思う。考える。思案する。愛しく思う。恋をする。懐かしく思う。回想する。望む。願う。希望する。心配する。悩む。嘆く。苦しく思う。予想する。〜そうな顔をする。

 

おもひ:思うこと。考え。希望。願望。願い。心配、悲しみなどの気持ち。もの思い。恋い慕う気持ち。思慕。愛情。予想。想像。喪中。喪に服すること。

 

いづ:出る。現れる。出発する。人に知られる。離れる。逃れる。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

林葉集