《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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埋火(うづみび)をよみ侍りける
権僧正永縁(ごんそうじやうえいえん)
なかなかに消えは消えなで埋火の生きてかひなき世にもあるかな
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
埋火を詠みました歌
権僧正永縁
なまじっか死んでもしまわないで、
埋火のように埋れて、
生きていてもかいのない世であることよ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;灰に埋まった炭をテーマに
歌を詠みます。
作者;権僧正永縁
灰の中に埋めてある炭は
容易には消えることがありません。
私は長い間、
神仏を信仰し、帰依してまいりました。
これまでの経験や人生観は
埋火のように
容易には
消えることがありません。
しかし、
人の一生は短く、
取るに足りないものです。
(魂の火が)
なかなか消えることなく
生き長らえても
無駄で、
取るに足りないことのようにも
感じられます。
この世に生まれ、
また、
この世を離れていくことは
素晴らしく、面白いことでもあるし、
切なく、悲しいことでもありますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
権僧正永縁:1048年〜1125年4月5日(享年78)。
1056年、9歳で父を失い、一乗院頼信に師事。
1061年、出家。
1124年〜興福寺権僧正(崇徳天皇の御代)
なかなか:中途半端だ。どっちつかずだ。かえってしない方がましだ。なまじっかだ。できそうもないのに無理に。よせばいいのに。かえって。むしろ。(打消を伴って)とても。容易には。とうてい。(近世語)ずいぶん。かなり。いかにも。そのとおり。
ながながし:非常に長い。
きえ:帰依する。神仏や高僧などを深く信仰し、その教えに従い、その力に頼ること。
きゆ:形がなくなる。消える。意識がなくなる。失神する。死ぬ。亡くなる。
うづみび:灰に埋めてある炭火。
うづもる:物に覆われて見えなくなる。うずまる。人が存在や才能を世に知られずにいる。うずもれる。
うづむ:土や灰の中に入れて上を覆う。うずめる。物思いに沈ませる。気分をめいらせる。
いく:生きる。生存する。生きながらえる。助かる。花を生ける。
いく:行く。移動する。赴く。立ち去る。通り過ぎる。
かひなし:効き目がない。無駄だ。どうしようもない。しかたがない。ふがいない。価値がない。取るに足りない。
かひな:腕。手枕の縁語。
なき:亡き。泣き。無き。
よ:現世。御代。治世。一生。生涯。寿命。世間。俗世間。時節。男女の仲。夫婦の仲。生活。暮らし。
よ:余り。以上。ほか。
よ:私。
よ:夜。
ある:生まれる。出現する。
ある:荒々しくなる。荒廃する。すさむ。興ざめする。
ある:遠のく。離れる。
かな:仮名。
かな:(詠嘆)〜だなあ。〜であるよ。
かなふ:適合する。合致する。相応しい。ちょうど良い。望み通りになる。成就する。願いが叶う。
かなし:かわいい。いとしい。心ひかれる。面白い。素晴らしい。みごとに。うまく。せつない。悲しい。気の毒だ。かわいそうだ。不憫だ。貧しい。生活が苦しい。くやしい。ひどい。残念だ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「消え」は「埋火」の縁語。