《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
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家に百首歌よませ侍りけるに
入道前関白太政大臣
降る雪に焚(た)く藻(も)の煙(けぶり)かき絶えて寂(さび)しくもあるか塩竈(しほがま)の浦(うら)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
家で百首の歌を詠ませました時に
入道前関白太政大臣
降る雪で、塩を取るいとなみの焼く藻の煙が消えて、
寂しいことだ。塩竈の浦は。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;我が家で主催した
1178年の「右大臣家百首」で
歌を詠ませました時、自らも詠んだ歌
作者;藤原兼実
雪が降る中を
海藻を「すのこ」の上で焼く煙が
消えてしまいました。
塩竈の浦は寂しい光景に
見えますよ。
=
雪のような大粒の涙が
こぼれます。
(あの方が亡くなって
時間が過ぎたので)
火葬の煙が消えて、
線香の煙も
途絶えてしまっています。
ひっそりとして
寂しく
荒れてしまった光景を見て
悲しみと不満の気持ちが
込み上げてきますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
藤原(九条)兼実:1149年〜1207年4月5日(享年59)。
後白河天皇、二条天皇、六条天皇、高倉天皇、
安徳天皇、後鳥羽天皇、土御門天皇に仕えた。
右大臣だったのは、1166年から1186年。
1189年12月14日、太政大臣。
1191年12月17日から1196年11月25日、関白。
1202年1月28日、出家。
ふる:古くなる。古びる。時が過ぎる。年をとり老いる。昔なじみである。古臭くなる。
ふる:降る。涙が流れ落ちる。
ふる:さわる。ふれる。男女が慣れ親しむ。関係する。出会う。少し食べる。
ふる:震動する。
ふる:振り動かす。揺り動かす。顔をそむける。男女関係で相手にしない。
ゆき:雪。涙。逝く。行く。
たく:燃やす。香をくゆらす。香をたく。
たく:髪などをかきあげる。束ねる。馬に手綱を操る。舟の櫂や櫓を操る。舟を漕ぐ。
も:表面。おもて。方面。
も:喪。災い。不幸。
も:藻。水中に生える海藻。
けぶり:煙。火葬の煙。死。かまどの煙。暮らし。水蒸気、ほこり、霞など。草木の新芽。苦しみ。苦悩。
けぶる:煙が立ち昇る。ほんのりと霞んで見える。ほんのりと美しく見える。火葬にされて煙になる。
かきたゆ:音信などが全くなくなる。消息などがぷっつり切れる。
かく:馬に乗って走る。
かく:破損する。傷つく。不足する。
かく:こちらから〜する。〜しかける。〜仕向ける。
かく:二つの地点をつなぐ。橋などをかけわたす。思いをかける。大切なものを託す。目標にする。関係づける。
たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。
さびし:ひっそりとしている。ひっそりとしていて寂しい。なんとなく寒々としている。心が満たされず楽しくない。貧しい。
ある:生まれる。出現する。
ある:荒々しくなる。荒廃する。すさむ。興ざめする。
ある:遠のく。離れる。
しほ:塩。海水。良い機会。よいころあい。しおどき。愛嬌。愛らしさ。
しほる:濡れる。湿る。
かまし:やかましい。うるさい。
〜がまし:〜に似ている。〜の傾向がある。
うらみ:恨めしく、憎いと思うこと。怨恨。心残りで諦められないと思うこと。未練。悲しみ。嘆き。悲嘆。
うらみ:入り江。船でかいが添いに巡り進むこと。
うらむ:不満に思う。恨みに思う。憎く思う。悲しむ。恨み言をいう。不平不満を訴える。ぐちをこぼす。恨みを晴らす。仇討ちをする。仕返しをする。虫が悲しげに鳴く。風が悲しげな音を立てる。
うら:心。思い。
うら:占い。
うら:入り江。湾。海辺。海岸。
うら:裏面。内部。裏布。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
1178年の「右大臣家百首」