《新古今和歌集・巻第六・冬歌》
673
同じ家にて、所の名を探りて、
冬の歌よませ侍りけるに、
伏見里(ふしみのさと)の雪を
藤原有家朝臣
夢通(かよ)ふ道さへ絶えぬ呉竹(くれたけ)の伏見(ふしみ)の里の雪の下折(したを)れ
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
同じ摂政太政大臣の家で、名所の名を探り取って、
冬の歌を詠ませました時に、「伏見の里」の題を
藤原有家朝臣
思う人の所に、夢の中で通う道までも絶えてしまった。
寝て夢見る伏見の里の呉竹が、
雪に下折れる音で。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;藤原良経の家で、
名所の名を(くじで)探り取って冬の歌を
詠ませなさいました時に、
「伏見の里の雪」をテーマに詠んだ歌。
作者;藤原有家
人生とは
夢のように儚いものですね。
亡くなったあの方に
夢の中だけでもお逢いしたいのに、
その道は
途絶えてしまいました。
心が寒々と冷え込みます。
(貴族の別荘地である)伏見に生えている
細い呉竹が
雪の重みで枝が折れて垂れ下がっています。
私も呉竹と同じように
涙で目の前を暗くして
寝床に横になっています。
亡き人を恋い慕う気持ちが積もって
気持ちがくじけ、
雪のような大粒の涙がこぼして
床に伏せておりますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
この歌も671番、672番に引き続き、
安徳天皇の崩御を詠んでいるとも
読み取れます。
竹の節(よ)は、天皇の御代(よ)を現しますし、
呉竹は、葉が細かい竹です。
満6歳4ヶ月で崩御された安徳天皇を
暗示しているように感じます。
藤原有家:1155年〜1216年4月11日(享年62)。
『新古今和歌集』の撰者。
ゆめ:夢。夢のように儚いこと。不確かなもの。迷い。煩悩。
かよふ:行き来する。往来する。男が恋愛関係にある女の家に何度も行く。物事を詳しく知っている。通じている。互いに共通点がある。似通う。気持ちや言葉が相手に通じる。交わる。交差する。入り混じる。
みち:通路。途中。道理。すじみち。道徳。教義。方法。ある方面。
みち:満ちること。
みつ:充満する。満ちる。満月、満潮になる。叶う。知れ渡る。
さへ:〜まで。さらに〜までも。〜すら。〜だけでも。
さゆ:しんしんと冷える。冷え込む。凍る。音や光などが澄み切る。冴える。
さふ:引っかかる。つかえる。さえぎる。邪魔をする。
たゆ:切れる。途絶える。やむ。絶命する。離縁する。
ぬ:寝る。
くれたけ:竹の節。葉が細かく、節が多い淡竹。清涼殿の東に植えてあるものが有名。
くれ:なにがし。だれだれ
くる:目がくらむ。涙で目が見えなくなる
くる:日が暮れる。終わる。すぎる
くる:くれる。与える。糸を繰る
たけ:身長。高さ。勢い。竹。山頂
ふしみ:伏見。貴族の別荘地。
ふす:横になる。寝る。床につく。うつぶす。倒れ伏す。ひそむ。
み:身体。身の上。我が身。命。本体。中身。
みる:目にする。見て判断する。対面する。経験する。試みる。夫婦になる。世話をする。
みゆ:見える。目に入る。来る。現れる。思われる。感じられる。見かける。見なれる。人に見せる。人に見られる。人に会う。結婚する。
さと:人里。集落。いなか。自宅。生家。実家。養家。俗世間。
さと:さっと。ぱっと。
ゆき:雪。涙。逝く。行く。
したをれ:草木の枝が折れて垂れ下がること。またその枝。
した:下部。下の方。地位や身分が低いこと。若いこと。能力が劣ること。内部。内側。内心。心のなか。
したば:下の方の葉。
したはう:心の中で思う。人知れず思う。ひそかに恋しく思う。
したふ:木の葉が色づいて赤く照生える。
したふ:慕って後を追う。恋しく思う。懐かしく思う。ついて学ぶ。師事する。
をる:波が折り砕ける。寄せ返す。曲げる。折りとる。たおる。折り畳む。折り目をつける。気が挫ける。負ける。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「呉竹の」は、「伏見」の枕詞であり、「雪の下折れ」にもかかる。
「呉竹」は、淡竹の一種で、葉が細く節が多い竹。
「伏」に「節」をかけて「呉竹」の縁語。
「伏見」は、「臥して見る(寝て見る)」の意をかけ、「夢」の縁語。